炎の温かみ
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サコッシュ - 300 × 230mm和蝋燭と芯切り鋏 夜になると、和蝋燭は灯った。 炎は小さかった。 けれど、その小さな炎は、暗闇の中で自分の仕事をよく知っていた。 照らす。 ただ、それだけ。 紙に書かれた文字を。 眠る人の顔を。 針仕事をする手元を。 仏前に供えられた花を。 そして、ときどき。 誰にも見られない涙を。 和蝋燭の芯は、灯り続けるうちに少しずつ長くなった。 芯が長くなりすぎると、炎は大きく揺れる。 煤も出る。 そこで、決まって現れるものがあった。 芯切り鋏。 黒く、小さな鋏だった。 和蝋燭は、芯切り鋏が好きではなかった。 「また来たのか」 「また来ました」 芯切り鋏は、いつも淡々としている。 「せっかく大きくなった炎なのに」 「大きければ良い、というものでもありません」 「私はもっと明るくなりたい」 「明るすぎれば、あなた自身が早くなくなります」 和蝋燭は黙った。 芯切り鋏は、長くなった芯をそっと挟んだ。 ぱちん。 ほんの少しだけ切る。 炎が揺れた。 一瞬、暗くなったように見えた。 けれど。 しばらくすると、炎は静かになった。 まっすぐに。 そして、前よりも澄んだ光を放った。 「……不思議だな」 和蝋燭が言った。 「何がです?」 「切られたのに、前よりよく見える」 芯切り鋏は答えなかった。 ただ、蝋の匂いをまとった刃を静かに閉じた。 それから何年も。 二人は同じ夜を過ごした。 祝いの日もあった。 誰かが生まれた夜。 誰かが嫁いだ夜。 新しい家が建った夜。 反対に。 誰かが旅立った夜もあった。 そのたびに和蝋燭は灯った。 そして芯が伸びれば、芯切り鋏が来た。 ぱちん。 また、ぱちん。 和蝋燭は次第に気づいていった。 芯切り鋏は、自分の炎を小さくするために来ているのではない。 炎が最後まで炎でいられるように。 そのために来ているのだ。 ある夜。 和蝋燭は、ずいぶん短くなっていた。 「なあ」 「はい」 「私が消えたら、お前はどうする?」 芯切り鋏は少しだけ黙った。 「次の蝋燭のところへ行きます」 「そうか」 和蝋燭は笑った。 炎が小さく揺れた。 「なら、安心した」 芯切り鋏は何も言わなかった。 ただ最後に伸びた芯を、いつものように挟んだ。 ぱちん。 その音は、夜の静けさの中でとても小さかった。 けれど。 和蝋燭の炎は、最後までまっすぐだった。 そして翌朝。 蝋燭がなくなったあとも。 芯切り鋏は、そこに残っていた。 次の夜を待つように。 次の小さな炎を守るように。
発送予定日
- サコッシュ - 300 × 230mm(300 x 230 (mm) - ナチュラル)2026-10-29

