『火種』4号
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短歌同人誌『火種』4号 🔥短歌連作 駒鳥朋名「私の執事、白桃、好意について」 里十井円「真っ青な石」 花澤希海「Mitate」 雪吉千春「三年目」 由良伊織「十三星座男子」 🔥相互評 駒鳥朋名 「十三星座男子」評 里十井円 「三年目」評 花澤希海 「私の執事、白桃、好意について」評 雪吉千春 「Mitate」評 由良伊織 「真っ青な石」評 🔥🔥🔥連作・連作評より🔥🔥🔥 歩けば春の止まれば冬の蠍の紅茶を飲むことになる日本語で /駒鳥朋名「私の執事、白桃、好意について」 私たちはきっと、蠍の紅茶を飲んだ覚えがあるでしょう。幼少の頃から何度も、街中では全てが麻痺するくらいに。だから歩き続けていた。春。新宿で声をかけられても、そうしてきた。(花澤希海) あとは世が星を導くのをまちましょう。ラーメンができるのもまてたでしょう。 /里十井円「真っ青な石」 でも、絶対に三分間は待たないといけないのだ。(略)人間が地球に起こる人災へ働きかけるようには、ラーメンが緩くなっていくための、必然の三年? 三十年? 三百年?(由良伊織) 福引はいつもより少し強引に 交友関係の東北新幹線 /花澤希海「Mitate」 断言されて、読者はそれに押し切られる。「どういう意味?」と「まあ、そう言うんならそうかもしれないね」の間を何度も行き来することに、この連作を読んでいく楽しさを見出すことができる。(雪吉千春) 見ないで、と思いつつそう教わったんだもんね、なら褒めてもいいよ /雪吉千春「三年目」 ほしがる態度は相手の見えるようには決して表さない。(略)が、それは相手を諦めているからではなくて、相手によりかかることが愛とは限らないということを知っているからだ。(里十井円) 熱があるときは順番に文鳥を連れてくる十三星座男子との暮らし /由良伊織「十三星座男子」 どういうスパイスを煮詰めてデフォルメして十三星座男子が生まれたのか。地球上のすごい物質を、見つけたそばからみんなほこりとりに入れたのだ。(駒鳥朋名) 🔥🔥🔥「忘れられない短歌」エッセイより🔥🔥🔥 夜はつらい しかしロボット掃除機がベッドの下へ潜っていった /中川智香子「バンドをやってる友達」(角川『短歌』二〇二二年八月号) 夜はつらい……しかし、ロボット掃除機が、ベッドの下へ潜っていった……はあ……音ゲーでもやるか……みたいな思考を、あれから何百晩もやっている(駒鳥) 夏の井戸(それから彼と彼女にはしあわせな日はあまりなかった) /我妻俊樹「午前二時に似ている」『カメラは光ることをやめて触った』(書肆侃侃房、二〇二三年) 我妻俊樹夢界隈。我妻俊樹の歌はたびたび夢小説的な要素を含んでいる。(駒鳥) 傷を隠すためではなくてぼくたちは世界のからくれなゐの傷口 /川野芽生『Otona Alice book 写真歌集「地上のアリス」』(Otona Alice Walk、二〇二二年) 脆いストーリー仕立てのヒロイズムに酔った連中には私たちを暴くことも、私たちに近づくことすらもできない。(里十井) 意味のある真顔をつくる 沈黙は美しい語彙だと思うから /帷子つらね「ハイドランジア」(『歌壇』二〇二一年二月号) 否定は単なる手段ではない。与えられた何かに既存のコードで答えないことは、そのコードの持つ定義への抗いを示す。(里十井) 100パーの女はいない100パーは成城石井のオレンジジュース /手塚美楽『ロマンチック・ラブ・イデオロギー』(書肆侃侃房、二〇二一年) 「女の中の女」という言説の欺瞞は見事に暴かれる。お前のいう100パーセントや100点なんか所詮は幻想でしかない、(里十井) なつかしい兎のような熱を抱き これは怒り あなたにも抱かせる /小松岬『しふくの時』(二〇二二年) 血潮から迸る、まるで生きもののように姿を変える熱を私はずっと知っていた。(里十井) みかきもり衛士の焚く火の夜は燃え昼は消えつつものをこそ思へ /大中臣能宣『詞花集』 当時は恋愛の物語を消費するのがすきだったけれど、今も昔も片思いしか理解はできない。(花澤) 海底に夜ごとしづかに溶けゐつつあらむ。航空母艦も火夫も /塚本邦雄『塚本邦雄歌集』(思潮社、二〇〇七年) 読み手への信頼というか、短歌には随分的確な批評家が居るものだなと思った記憶がある。(花澤) 葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり /釈迢空『釈迢空全歌集』(角川学芸出版、二〇一六年) みんなに好かれていたかどうかはわからないが、個人的な恩をずっと持っていて、名前を忘れられない先生。私はいい生徒ではなかったね。(花澤) 今朝のあさの露ひやびやと秋草や總べて幽けき寂滅の光 /伊藤左千夫『新編 左千夫歌集』(岩波文庫、一九八〇年) この下句にあこがれて下句になりましたという人がいてもおかしくない。家族にはなりたくないけど、下句になろうよ。(花澤) まつ毛というまつ毛が電波狂わせて終夜よい子でいるキャンペーン /平岡直子『みじかい髪も長い髪も炎』(本阿弥書店、二〇二一年) ラジオに救われていたけど、それはわたしのようなリスナーに向けられたものではなく、彼らが呼びかけるのはいつも「童貞の」「冴えない」「面白い男たち」(花澤) 私には言葉がある、と思わねば踏めない橋が秋にはあった /大森静佳『ヘクタール』(文藝春秋、二〇二二年) この歌をずっと反芻していた時期がある。自分を鼓舞するように、そうするしかなかった。(花澤) のりしろ、という月光が集まって二度と見えなくなるしくみです /大橋弘『既視感製造機械』(六花書林、二〇二〇年) 完全口語とも言い切れない芝居がかった語り口、かと思えば日常を侵犯するような口調、崩れながらも聞き覚えのあるフレーズ。(花澤) 優等生と呼ばれて長き年月をかっとばしたき一球が来る /俵万智『チョコレート革命』(河出書房新社、一九九七年) 小学生のころのわたしは、優等生であらねばならないというこだわりが人一倍強く、自分でもよくわからない状態になっていた。(雪吉) 声のない世界で〈海だ〉と僕は言う きみは〈雪だ〉と勘違いする /青松輝『4』(ナナロク社、二〇二三) この歌を歌会で初めて見たときはそんなわけなかろうがと思ってちょっと怒っていた気がする。(雪吉) でもこれはわたしの喉だ赤いけど痛いかどうかはじぶんで決める /兵庫ユカ『七月の心臓』(ブックパーク、二〇〇六) この歌が座右の銘だった時期がある。かっこよかったし、共感できたから。(略)わたしは中高と放送部に所属していたこともあり、自分の喉や声のことには敏感だった。(雪吉) ユリイカ あなただった 浴槽で目覚めたときにすべてわかった /石井僚一『死ぬほど好きだから死なねーよ』(短歌研究社、二〇一七) 高校生のときは、よく浴槽でうとうとすることがあった。塾から帰ってきて家族の後にお風呂に入ると、疲れて目を閉じてしまう。(雪吉) 運命は名前で決まる だとしても ソシャゲに重課金の女の子 /乾遥香「恋愛運」(『ぬばたま』六号) 私は去年、『あんさんぶるスターズ!! Music』というゲームに二万円課金しました。お金がないのでゲームに課金はしないと決めていたのですが、どうしても欲しいカードがあり……(由良) スリザリンもグリフィンドールも駄目だったみたいな気持ち 音ゲーが好き /濱田友郎「一切の望みを捨てよ」(『京大短歌』二十二号) 私はゲームが苦手で、広大なものは特にプレイできません。『あつまれ どうぶつの森』や『バイオハザード』は途中で諦めてしまいました。(由良) 君以外残っていない晴天のぐるぐるタッチ告白エンド /絹川柊佳「ジェネリック桜」(ネットプリント、二〇二三年) さっき音ゲーしかできないみたいなことを書きましたが、乙女ゲームもできそうです。(略)ひとつの運命に至るまでの無限の分岐やときめきの選択には興味があります。(由良) 遠足の写真は月の写真だよ 心からきらいにならないで /我妻俊樹『カメラは光ることをやめて触った』(書肆侃侃房二〇二三年) 一枚の板の表と裏にそれぞれ〈きらい〉と〈きれい〉が書いてあって、それを指で弾いたらくるくるっと板が回って、〈きらい〉〈きれい〉〈きらい〉〈きれい〉……(由良)