忌み子の翼Ⅲ
Physical (worldwide shipping)
- Ships within 7 daysShips by Anshin-BOOTH-PackPhysical (direct)900 JPY
Physical (ship to Japan)
- Ships within 7 daysShips by Anshin-BOOTH-PackPhysical (direct)900 JPY

天使リリウムはどの天使よりも特別だった。 どの天使よりも聡明で優しく、そして、壊れていた。 そう、壊れていたからリリウムは奪われ、堕とされた。 本来、天使には持ち得るはずのない己の意志を、善悪を、正義を持っていたから、 誰よりも愛されるはずのリリウムを神は嫌ったのだ。 ◆◇◆ 神は孤独だった。 孤独ではあったが、この世に存在した時からそこにいたため、孤独であることに悲しさも寂しさも抱くことはなかった。 しかし、ある日、神は夢を見た。 何かと共に過ごす夢を。その温かな時間を神は知ってしまった。今まで抱くことがなかった感情を知ってしまった。 神は夢に見た理想郷を求め、自分とは違うその何かを創ることにした。 神の吐息から魔獣が創られた。 しかし、魔獣たちは神が過ごしていた地を食い荒らし始める。 神は急いで地を切り離し、自身がいる片方を天へと浮かせ、天界と名付け、下に残された魔獣たちの地を下界と名付けた。 神は嘆き涙を零した。すると涙から人が創られた。 人は魔獣とは異なり、感情と知性を使いこなし、神は喜んだ。 しかし、人間は愚かで我儘だった。 父であり、母である神に逆らうようになったのだ。 それは赦されないこと。罪である。 彼らは、彼女らは己の意志を持ち、神に意見し、挙げ句の果てには子を成したのだ。 神は怒り、人間を下界へと捨てた。 結局、神はまた孤独になる。 だが、もう孤独のままであるのを神は耐えられなかった。 だから、縋るように祈るように神は再び何かを創る。 神は吐息と零した涙を混ぜ、最後に己の血を注いだ。 するとどうだろうか、生まれたそれは魔獣のような力を持ち、人のような感情と知性をもち、そしてどこまでも神に従順だった。誰が偉大な存在であるのか分かっていたのだ。誰を敬うべきか分かっていたのだ。 神は大いに喜び、そして天界で暮らし神に仕えるそれらを天使と名付けた。 ああ、求めていた理想郷は、創られた。 途方もない時間をかけて創り上げたその居場所で、幸せな時を過ごす。 だけど、そんな神のためだけにできた理想郷はいつまでも続くわけがない。 いつだって世界は変化を求める。誰かの意思とは関係なく。誰かの善悪とは関係なく。 神が、夢を見るようになったあの時のように、 魔獣が、破壊することを覚えたあの時のように、 人が、命が宿る尊さを知ってしまったあの時のように、 完全を、永遠を、崩す変化が起きる。 それは唐突に、前ぶれもなく。 満月が涙を零し、その雫から白銀の天使が天界に舞い降りた。 神の血肉から生まれたわけではない、神の祝福と呪いを受けたわけではない、純粋無垢の天使が。 そう、あの日、あの瞬間、白銀の天使、リリウムは世界に誕生した。 ------------- 忌み子の翼シリーズの4冊目。 義理人情あるがガサツなロサと、元貴族令嬢ではあるが脳筋のライラック。そしてそんな二人の女盗賊に盗まれ、一緒に旅することになった元少女神リリィ。 今回はリリィの旅路に度々立ちはだかる天界神教の創設者であり、世界を救った無翼の天使リリウムを嫌う、有翼の天使アルストロメリアを中心に話が動きます。 文庫本サイズ 154ページ