魔女の宿願
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▶仕様 文庫サイズ 100P ▶あらすじ 魔女の願いが具現化し世界に異変をもたらす魔眼石。それらを収集を行っているセルマ達は数年前に滅んだ筈の四季の街 ノルタニアを訪れた。 現存する街には「大地の魔女」と呼ばれ人々から人気を博す三姉妹の魔女がいて…… ▶当作品において こちらは同名義にてカクヨムにて公開中の連載式短編集「花庭に魔女は咲う」の一作品になります。 公開中の作品に加筆修正と書き下ろし「夜水の魔女はかく語りき」を収録しています。
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長い船旅を終えて埠頭に降り立つ。セルマの視界一面に色鮮やかな景色が展開した。 景観を整えた美しい都市が出迎え、ウィンドウボックスを彩るマリーゴールドが日の光に輝く。立ち並ぶ建物の背景には長大な山脈が広がっているのが見えた。 「ここがトリストン国の避暑地。春は咲き誇る花、夏は涼しい気候、秋は落葉樹林による美しい紅葉、冬は豊かな雪。美しく移ろう四季の街。……巷の風聞どおり綺麗な場所」 「これほどにも美しい街なのに、ここに探し物が存在しているとは。非常に残念だと思わないかい?」 風で乱された黒髪を手で押さえていると、隣に細身の長身の男が隣に立つ。夜天にも似た真っ黒な衣に身を包み、ブルーグレーの髪を風に遊ばせている。 眼帯に覆われた隻眼がこちらへ向けれた。感情の表れないピーコックブルーの眸を見つめながら、セルマは素っ気なく返事を返した。 「お前でも残念と感じる心があるとは。意外だね、レイヴン」 「それは心外だ。僕にだって憂いをいだくことはあるさ」 「……どうだか。今一度、鏡で自分の顔を見てから同じ台詞を言いなよ」 言い捨てると長く伸びた髪と深い青色の外套をはためかせ、色鮮やかな街へと交わってゆく。 レイヴンは肩をすくめるとすぐさま長い足を踏み出し、隣に並ぶ。 「四季の街ノルタニア。四季折々の美しさを際立たせる景観地に、季節ごとに表情を変える耕作地。夏は避暑地になることから別荘地として知られている。ここまでが誰でも知っていることだが、他にも見どころがあるのを知っているかい?」 ちらりと視線を向けられ、レイヴンはさらに口を開く。 「奥に進んだ先に大きな湖があり、その中心に小島がある。『カナンキ』と呼ばれた島は禁足地とされている。浮かぶ小島はある。大地の女神が眠る場所だそうだ。その女神から大地の力を与えられたのが、僕たちの目的の魔女『大地の魔女』の由縁だ」 なんとも興味深い話だろう。とレイヴンは冷ややかにこぼす。神という存在を信じない彼からすれば、そういった話は滑稽な話に聞こえるのだろう。 「ひとまずはいつもどおり異変について聞き込みをしよう。カナンキについては、確証が得られるまでは話題にしない。下手に触れて警戒されても困る。いいね、レイヴン」 「すべてはお嬢様の仰せのままに」 四季の街 ノルタニア。 大地の魔女によって守護された平和な景観が広がる今は亡き街。