【VRChat対応】未完成の屋台 -Prototype Ramen Stand-
- 小ラーメン(fbxのみ)Digital0 JPY
- チャーハンセット(fbxとblendファイル)Digital100 JPY

駅の広場に、その屋台はあった。 古びた木のカウンター、頼りなげに揺れる赤ちょうちんが二つ。そして、真ん中にぽつんと置かれた、煤けたランタンが一つだけ。厨房らしきものはなく、寸胴もなければどんぶりさえ見当たらない。それでも、客たちは夜な夜なここに集まり、「人生で一番うまいラーメン」を食べたと口々に絶賛していた。 「ここのスープ、最高だよな」 「麺のコシが絶妙でさ……」 「チャーシューがとろけるんだよ」 誰もが夢中になって食べ、満足げに店を後にする。そして、気づけばまたここに戻ってきてしまうのだった。 屋台の店主は、年老いた男だった。黙々と注文を受け、寡黙に頷く。しかし、よく見ると、彼の手には何も持っていない。ラーメンを作っている素振りはあるが、寸胴があるわけでもなく、湯気すら立たない。ただ、目の前の客は幸せそうに箸を動かしている——いや、そもそも箸すら持っていないのに、まるで何かを食べているかのように口を動かしているのだ。 ある夜、一人の男が屋台の様子を観察していた。どう見てもラーメンが存在している気配がない。だが、食べた者は皆、恍惚とした表情を浮かべ、「美味かった」と言って帰っていく。何かがおかしい。男は意を決して、店主に尋ねた。 「親父さん……ここ、本当にラーメン屋なのか?」 店主はゆっくりと男を見つめると、口の端をわずかに歪めた。それは、微笑みとも、不気味な何かともつかない表情だった。 「ラーメンが、うまかったんだろう?」 男はゾクリとした。確かに、自分もここでラーメンを食べたことがある。スープの旨味、麺の食感、チャーシューのとろける感触……すべてを覚えている。しかし、ふと考えた。本当に、食べたのか? 寸胴はない。どんぶりもない。屋台にはラーメンの材料すらない。ただ、赤ちょうちんと、真ん中のランタンがぼんやりと光っているだけ。 「なあ……俺たちは何を食べてるんだ?」 男の問いに、店主は答えなかった。ただ、静かにランタンの灯りを指さした。 その瞬間、男の頭の中に何かが流れ込んできた。 ——これは、創造主の手抜きだ—— 誰かの声がした。それは、この屋台を作った何者かの声だった。ラーメンを作るのは面倒だった。スープを煮込むのも、麺を茹でるのも、具材を準備するのも。だから、「ラーメンを食べた」と錯覚する仕組みだけを作り、あとは放置したのだ。 だから、ここには何もない。 ただ、"ラーメンを食べたと思い込む"だけ。 男は恐る恐る、自分の両手を見た。そこには、何もなかった。箸も、どんぶりも、ラーメンすらも。あるのは、口の中に残る幻の味だけ。いや、それすらも、本当に「味わった」のかどうか。 他の客たちは、何も疑わずに食べ続けている。いや、"食べているフリをしている"のかもしれない。彼らは気づいていない。ここに、本当はラーメンなど存在しないことに。 男は震える手で、屋台のランタンを見つめた。そこには、かすかに文字が刻まれていた。 ——開発途中—— 「まさか……」 男が声を上げると、ランタンがふっと消えた。ちょうちんも、屋台も、店主も、すべてがゆっくりと溶けるように消えていく。駅の広場には、ただ夜風だけが吹き抜けていた。 翌日、男は駅の広場を訪れた。そこには、何の痕跡もなかった。ただ、昨夜ここで「ラーメンを食べた」と錯覚した記憶だけが、頭の中にくっきりと残っている。 あれは何だったのか? ふと、男の足元に小さなプレートが落ちているのが目に入った。拾い上げてみると、そこにはこう書かれていた。 ——バージョン1.0β—— 男は青ざめた。あの屋台は、まだ試作品だったのか。そして、その創造主は……いったい誰なのか? その答えを知る前に、プレートは彼の手の中で音もなく崩れ、風に消えた。
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創造主のひとこと
過去作です。 ラーメン要素はないですが感じてください。