和声の微分音的拡充についての研究 (修士論文)
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国立音楽大学大学院の令和元年度の修士論文にいくらか修正や編集を加えた電子書籍版です。 A4大のPDF形式です。 (KindleまたはKoboで出版する予定でしたが、それらはPDF形式での出版が出来なかったため、Boothで販売することにしました。)
要旨
本論は、和声理論および和声法のさらなる発展のため、並びに、音楽理論においていまだ十分に研究されていない領域である微分音を用いた和声の探求のために、和声理論および和声法の微分音的拡充の可能性について研究することで、音楽理論のさらなる発展に努めるものである。 和声は、音楽において重要な要素の一つである。和声理論および和声法の拡充は、音楽が発展してゆく長い歴史の中で、多くの作曲家や音楽理論家によって広く試みられてきた事柄である。 しかしながら、そのほとんどはオクターブを 12 分割する音高の尺度(12 の音位)に基づくものであり、それ以外の音高の尺度に基づく和声である微分音和声は、いまだ十分に研究されていない状況であると考えられる。したがって、和声理論および和声法は、微分音の範囲において多分に発展の余地があると考えられる。 第 1 章では、微分音という概念そのものの定義やその性質について考察し、また、微分音を用いた和声を指す微分音和声の概念についての概要を述べる。従来の和声における基礎となる概念が音階であるように、微分音和声における基礎となる概念が微分音音階であることから、微分音音階に関する概要についても述べる。 第 2 章では、微分音的に拡充された和声理論を「一般化和声理論」と定義し、その理論の構築の目的や、構築の道筋について述べる。また、島岡譲による理論を、本論で構築する理論の土台となる理論として位置づけ、島岡の理論の基礎部分を概略する。 第 3 章では、一般化和声理論の基礎となる音階理論を構築するための準備として、音階の性質について考察する。特に、従来の和声理論における基礎である全音階のもつ性質を抽象化し、全音階の持つ構造的性質と中間近似分数などの数学的概念との関係性に言及するとともに、「一音転調性」や「隣接音程二種類性」などの本論で新たに定義される諸概念を用いて、全音階のもつ音楽的性質が全音階のもつ構造的性質とどのように関係しているかを論じる。 第 4 章では、7 音以外の音数を持つ音階に言及する必要から、あらゆる音数の音階を記すための記譜法について考察する。島岡が提唱した「相対譜表」やアービン・ウィルソンが提唱した音階の性質に即した記譜法などの先行研究に言及するとともに、あらゆる音数の音階を記すためのより実用性な方法として汎用 n 音譜表の概念を提唱する。 第 5 章では、第 3 章で論じた音階の性質についての考察に基づき、和声理論の基礎である全音階の概念を微分音の範囲に一般化する。これによって導かれる「堆積性全音階」の概念は、一般化和声理論構築のための基礎となる。堆積性全音階の概念は、イワン・ビシネグラツキー、ジョセフ・ヤッサー、ウィルソンらの音階と関係することから、それらの先行研究との関係性についても述べる。さらに、堆積性全音階において、旋法や音程や和音などの従来の音楽的諸概念がどのように再定義されうるかについて述べる。 第 6 章では、実際の音楽で用いられる全音階以外のあらゆる音階の性質を考察することで、様々な音階概念を微分音の範囲に一般化する。これにより、一般化和声理論を、より広範な理論として位置づけることができる。 第 7 章では、これまで述べてきた音階理論や音楽的諸概念に関する理論を使って、各音階による和声理論および和声法が実際にどのように形成されうるかについて、その用例の例示とともに述べる。 第 8 章では、これまでの理論を踏まえて、微分音和声音楽を分析する。 本論の主な成果は、和声の微分音的拡充の様々な可能性の論述である。前述のように、これは音楽理論のさらなる発展に広く寄与するものである。また、これによって間接的に、従来の和声と微分音和声との関係性も示されている。本論の副次的な成果としては、和声における諸概念についての深い考察が挙げられる。これもまた、音楽理論において重要な意味をもつ成果であると考えられる。 本論の後続の研究課題としては、本論で導かれた様々な音階それぞれによる実践的な和声法の研究が考えられる。本論においても、第 7 章でそれにあたる研究の一部を例示しているが、これは無数に考えられる和声の可能性の中の一部に過ぎない。また、音楽史の上で微分音による和声が実作品において十分に試みられていないという状況に変わりはなく、今後のさらなる音楽の発展のためには、本論の研究成果や、微分音に関する先人たちの研究成果を生かして、いかに実際の音楽作品として実現していくかが大きな課題となる。これと関連して、演奏において微分音を実現するための微分音奏法の研究も、関連の課題である。