鏡合わせの異世界エレベーター
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異界探索×ミステリー A6小説/204p 『異世界エレベーター』をテーマにした探偵とホラー作家の異界探索譚 5階から乗り込んできた少女と目が合った瞬間、御影みかげは鏡の怪異ドッペルゲンガーを思い出した。 まるでもう一人の自分に出会ったかのような不思議な感覚だった。顔が似ている訳でもないのに。声もきっと似ていない。 「何階ですか?」 思った通り、御影のようなへらりとした男とは似ても似つかない、芯の通った女性の声色で彼女は話しかけてきた。 エレベーターの閉ボタンに指をかけたまま、彼女は返事を待っている。 御影は少しだけ考えてから、正直に行き先を答えることにした。 「えっと。……異界?」 「ふふ。じゃあ1階、押しとくね」 人懐っこい表情で少女が笑う。 白い機械ドアが閉まる。少し薄暗くなったエレベーター内に御影と少女だけが取り残された。壁面に据え付けられた、覗き窓のような鏡に二人の姿が映っている。 似ているはずはないのに、何故かやはり対の存在が立っているような、不思議な気持ちが御影を襲った。 黒髪を腰まで垂らした、凛とした少女だった。 もし御影が彼女の容姿を小説で描写するならば、『キャンパスライフを背負ってきたかのような白ニットの女子大生』と書いただろう。『クールな目鼻立ちの』『勤勉な』とも付け加えるかもしれない。 彼女が肩に掛けたトートバッグから、ちらりと講義ノートが見えている。表紙には『民俗学』と角かどが丸まりがちな手書き文字で書かれていた。中身を何度も読み返したのか、ノートの角がすり減り、灰色にくすんでいる。 見た目は華やかな大学生。 両手にはめた黒手袋だけが異質だった。 黒手袋。よほど頑固な汚れと戦っている最中の掃除屋か、これから証拠の抹消を行おうとする殺し屋しか身につける事がなさそうな、厚手革の黒い手袋だった。 ――いいや、どっちにしても広義の掃除屋かな? 御影が普段書いているホラー小説なんかよりも、サスペンスやミステリーにでも出てきそうな風体をしている。 なににせよ、怪異のような現れ方をしたクセに妙に人間くさい少女だった。 「あっ、上った!」 5階から1階のボタンを押したはずなのに、エレベーターが逆向きに上へと登っていく。 6、7……と登っていく電光の階表示に少女の目が輝いた。 不可思議な現象のはずだが、エレベーター内の二人は落ち着いていた。『儀式』の手順としてはこれで正しいのだ。 とは言え……と御影は困ったように笑う。 「俺、これ失敗する流れだと思ったなぁ」 「5階から乗ってきた女性に話しかけたら失敗する、だもんね」 本文サンプル続き https://erla.jp/UNtame/novel/906316/137530/