檸檬羊毛
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書籍|B6 2025/11/18(火)発行 ─── 香りは、記憶のかたちをしている── 檸檬の瓶、赤く染まった煉瓦塀、ボートの揺れ。 触れずにいた感情が、少しずつ形を変えながら肌に沁みていく。 「沈黙」を通して語られる、小さな香りの記憶の断片集。 煉瓦塀の隙間から漂う、焼けた皮膚と血の匂い。 鼻先を過ぎる異臭に抗うように、布に染み込んだ檸檬の記憶を呼び起こす。 誰かの記憶か、あるいは記憶のなかに残された誰か。 何を確かめに来たのかもわからないまま、ただ匂いだけが過去へと連れ戻す。 『檸檬羊毛』は、そんな一つの場面から静かに始まる。 だがそれは、ただの序章にすぎない。 語りはやがて移ろう。 親子、祖母と孫、従兄妹、見知らぬ女と少女── その関係性は、時に繋がり、時にすれ違いながら、 記憶と沈黙のなかで互いの輪郭を形づくっていく。 匂い、手触り、夏の光と翳り、 そして長いあいだ言葉にされずに沈殿してきた思い。 それぞれの登場人物が抱える静かな裂け目が、 断片的に、しかし確かに編まれていく。 未完成のまま放置された小さな布袋、薔薇の香り、 斑に染まったハンカチ、曇ったガラス越しのジャズの旋律。 そうした些細なものたちが、無言のまま語り手となる。 声を荒げる者はいない。 ただ、言葉にできないまま誰かの胸に沈んでいった思いが、 ふとした手の動きや、しまわれたままの物の存在を通して滲み出す。 そのかすかな浸透が、全体に目に見えない織目を与えていく。 これは、ひとりの物語ではない。 けれど、どの語りも、どこかで誰かひとりの深い孤独と、密かに通じている。







