*** 　其の海は部屋の白い壁を透過するように様に通り越し、ずっと遠くまで広がり、本物の海のように穏やかに波打っていた。其の外は相変わらずの真っ白い部屋で、此れ迄の比ではなく異様だった。 「さて」 　出る為の条件を探すと、直ぐに見つかった。海すれすれの床に何かが落ちている。波に攫われる前に近寄って拾い上げると、其れは白い原稿用紙だった。真ん中に、角張った大きな字で一文が記されている。 『倖せを感じないと出られない部屋』 「哲学的な題を出すじゃァないか」 　思わず嘲る様な声が出る。 　パンやお菓子とは違う、明確な脱出方法が決まっていない部屋だった。 （33頁より抜粋/書き下ろし） *** 連載していた「○○しないと出られない部屋( https://www.pixiv.net/series.php?id=953317 )」シリーズ総集編です。 太宰さん多め。小説二巻びいきな気がします。 恋愛要素はなし、あるいは原作に準ずる程度。 書き下ろしは下記のとおりです。 ・回答編→この部屋について言及する二組のお話 　（福沢・乱歩・与謝野/太宰） ・もしも編→もし入った部屋が違ったら、というお話 　SSS八作分 COMIC CITY大阪115初出。 文ストオールキャラ健全本/A5/本文40頁