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10月24日に開催されました、よんこま文化祭2021で頒布したコピー本のデータ販売ページです。 狩手結良が保登心愛への印象を少ない交流の中から述べるお話です。
基本情報
A5、表紙込み8P
サンプル
得意というわけではなかったが、吹き矢は好きだった。 息を吹き込むだけで射出されるだなんて、まるで少年誌の付録のおもちゃみたいな構造だ。それなのに、いざ射出された弾は視認すら能わない速度ですっ飛んで、瞬きすら間に合わないうちに的を突き刺す。そんな名前の印象に反する凶暴性が、私の美意識を刺激した。 何しろ古来より狩猟民族が獲物を捕らえるために扱っている武器だ。弓矢ほど飛距離があるわけではないものの、携帯性や風切り音の観点では弓矢より優れていて、うさぎみたいな小動物を狩るのには適している。先に毒を塗っておけば、もう少し大きなサイズの生物を狩ることだって可能になるという。 鳥とか、獣とか。もちろん、人間にだって。 〇 「ラビットハウスにも吹き矢部があるんだよ」 ──某日、夕方。つつがなく講義を受け終え、アルバイトが始まるまで時間があるということで二人してリゼの家でお茶していたときのこと。 ウォーターサーバーからコップに水を注ぐ私に向かって、リゼが何気なく言った。 「っていっても、主にバータイムに開かれているみたいだから、あんまり参加したことはないんだけどさ」 「へ~」 水位がコップの半分くらいまで達したところで栓を締めると、とぽとぽと供給されていた水は途端に一滴も落とさなくなる。それを確認してから、私はコップを手にリゼの下へと向かう。 「それって、つまり、ラビットハウスにおいでよってこと~?」 私が歩を進める度に、コップの中の液は振動で揺れる。波を起こそうと思って揺らしているわけではない。零れないように、溢れないように、暗殺者みたいな足取りで静かに歩いているつもりではある。しかしながら私は暗殺者でも忍びの者でもないから、水平に保ったまま歩くことは叶わない。どんなにとどめようとしても微々たる振動というのは発生してしまう。私にできることは溢れさせないようにすることくらいだ。 そして、それは、半分しか注いでいないおかげで造作もなかった。