A6文庫218ページ おまけ→芋ノ芽書房ロゴステッカー1枚
「相田の電気で米を炊く」
恋の成就とはなにか。好き合うこと、付き合うこと、まぐわうこと、結婚すること、さらにはそれを継続すること。櫃子の恋はそれらのひとつも成さないが、それとは別に成すことがあった。 中学二年で相田と出会い、それから卒業までの二年間、櫃子は己の肉体の鍛錬に努めた。相田をいじめから救うのに、実行犯の皆殺しを画策したのである。 しかし計画は未遂に終わり、中学卒業を迎えるとともに櫃子と相田は離れ離れとなってしまう。 孤独にひたすら鍛錬するばかりであった櫃子は結局、二年間で相田と一言も交わすことはなかった。 ”これでいいのだ、と櫃子は考える。相田には相田の幸せがあって、それでいいではないか。自分には踏み込めない相田の領域を、少しそばから見ているだけで、自分の恋はそれでいい。今こうして相田の後ろを歩いているだけで、こんなにも心が躍るのだから。櫃子の人生でこんなにも幸せなのは、初恋の渦中に筋力トレーニングに明け暮れたあの日々にだってもしかすると、なかったことかもしれない。” 出会いと別れ。地獄の淵で見出した希望の光。 過度に再生した恋心に突き動かされて、果たすのは再会にとどまらない。 恋に生きるとはなにか。 櫃子の自問自答はやがて、実質的同居生活という抜け道を導き出す。 恋など無縁と思い込むあなたの自意識にこそ侵犯を試みる、無尽蔵な恋物語。