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histories
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【自家製本/A5判/16頁】 自分主催以外のアンソロジーに寄稿した掌編3編を収録。 歴史物の雰囲気を持つFTが多く集まりました。 ---------- 「雪龍譚(せつりゅうたん)」 その村は隔絶されていた。 四方は切り立った断崖で囲まれ、それを形成する岩石はどんな鋼も通さない。 村の中央を流れている川が、かろうじて外界と接していると言えるが、断崖と接する箇所では流れが地中に潜ってしまい、人の出入りは適わぬ。 空は遠く、陽も月も地表をぼんやりとしか照らせない。大地も岩石で形成されているため、村全体が井戸の底にあるかのようだ。 岩石の灰色に塗りつぶされ、つねに薄暗い村の中で唯一の色彩は、川の水が纏う、あざやかな青藍色であった。ゆらゆらと揺れる水面は、時には濃く、時には薄く青藍の色味を変え、村の人々の目を楽しませる。 色彩だけではない。 村にとって、この川は命綱であった。 ---------- 「静暗索(しずかあんさく)」 土煙のもうもうと立つ山道を女人がふたり、歩いていた。起伏のある道にての歩の進めようのおぼつかなさから、日頃はこうした道を自身の足で歩いてはおらぬ者たちであろうと容易に察せられる。 女人の一方はうら若く、砂ぼこりにまみれていてもなお容貌(かんばせ)のうるわしきことが見て取れた。纏う小袖の汚れが、ここまで遠路を越えてきたことを語る。息は上がっているが、前方をきっと見据え、先を急ぐと言わぬばかりに足の動きは決して緩めぬ。 もう一方の女人は、もう一方の母君であろうか。皺は数々あれど、よく似た顔立ちをしている。後方を顧みぬ娘を、杖をつきつつ追っているが、両者の間の間隙は徐々に開きつつあった。 ---------- 「恩返し」 鞄は死にかけていた。 凄腕と謳われた魔術師と共に国から国へと渡り歩いていた鞄は、旅の終着点の国で王に献上される。