忌み子の翼Ⅳ
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神は自身が孤独の苦しみから解放されていればそれでよかった。 孤独から神を救う、神のための箱庭―天界。 この箱庭さえ平穏ならそれでよかった。 だから、箱庭を脅かす因子は取り除いた。 リリウムを堕とし、アルストロメリアも出ていくように誘導した。 天界は神にとって完璧な世界であらねばならない。 だから、神は、天界ではない下界のことなど、心底どうでもよかった。 ◆◇◆ 「それ」はただの天使だった。 天界で生まれた、背中から白い一対の翼をはやした、特別でも何でもないただの天使。 かつて天界には特別な天使がいた。 満月の涙から生まれた天使は自身をリリウムと名乗り、様々なことを教えてくれた。 全ての天使の憧憬となり、特別になった。 「それ」はリリウムのことが好きだった。 きっと他の天使だって同じだろう。 かつて天界には嫌われ者の天使がいた。 その他大勢の天使たちと変わらないはずなのに、リリウムからアルストロメリアと名付けられ、リリウムに特別扱いされた天使。こともあろうかその天使はリリウムから翼を奪い、下界へ突き落としたのだ。 全ての天使の失望となり、最悪になった。 「それ」はアルストロメリアのことが嫌いだった。 きっと他の天使だって同じだろう。 だけど、「それ」はただの天使だから何もしなかった。 いくらリリウムが好きでも、いくらアルストロメリアが嫌いでも、特別なことは何も。 天界から下界へ降りる気なんて当然なかった。 リリウムが堕とされた時も。 アルストロメリアが自ら降りた時も。 ただ祈ることしかしなかった。他の天使たちと同じようにただ祈るだけ。 リリウムの生まれ変わりと思われるリリウムと瓜二つの見た目をした人の子が奉られれば、その子に加護があるように祈った。 アルストロメリアが苦しめば、その苦しみが膨らんでしまえと祈った。 そして「それ」は今、悩んでいた。自分が、自分たちが、祈り、加護を与えていた少女は憧れで特別であるリリウムの生まれ変わりではなくて、本当にただのどうってことない人の子だったのだ。 ああ、自分たちは自分たちを惑わした人の子を呪えばいいのだろうか? それとも運命に踊らされた哀れな子羊として救えばいいのだろうか? 祈ることしかできない「それ」はただ悩むことしかできなかった。 ------------- 忌み子の翼シリーズの5冊目で最終巻。 義理人情あるがガサツなロサと、元貴族令嬢ではあるが脳筋のライラック。そしてそんな二人の女盗賊に盗まれ、一緒に旅することになった元少女神リリィ。 今回は、リリィたちがある真実を知ってしまい物語が大きく動き、そして、終わりを迎えます。 彼女たちの旅の行方を見守っていただけると幸いです。 文庫本サイズ 170ページ