140字小説集『夢みるあの子はいつも』
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☆140字小説集 第7弾 この世界で起こる全ての出来事は、誰かの見ている夢なのかもしれない。そう思うことで諦めのつくことも、救われることもきっとある。夢のような日々を、どうか、生き抜くために。感傷、恋愛、青春、ホラー、コメディなど、No.851‐1000に書き下ろし6作を加えた156作を収録しています。 noteで収録作品が全て無料で読めます! https://note.com/akisuke0825/n/n725489453ed4 【文庫版限定特典】 ・大幅な加筆修正 ・作品への一言追加 ・書き下ろし3作追加 ・素敵な表紙 ・雰囲気を重視した掲載順変更 も、楽しめるのでぜひお手に取ってみてください! 【夕縁】 夕陽から抽出したコーヒーを口に含むと感傷が広がる。黄昏時に開店して、月明かりが灯る前に姿を消す喫茶店だ。彼の夢を嗤ったこと。お年寄りの鈍臭さを憎んだこと。涙を飲むことでしか癒せなかった渇きを満たしてくれる。生きる糧とするために。未練や、後悔すらも、カップに注いで溶かす。 【メビウスの輪】 「親指は良いときに立てるし、人差し指は伝えるときに示すでしょ。中指は嫌なときに向けて、小指は約束のときに結ぶよね。でも、この指は特に使わないじゃない」彼女の薬指に婚約指輪をはめる。「だけど、あなたが意味を与えてくれるのね」生きる理由もなかった僕達に、光が射し込むために。 【記念撮影】 カメラを構えると彼女は不機嫌になる。気分転換に『はい、チーズ!』の由来は、撮影者が「配置、良いっす!」と褒め、思わずにっこりしたのが始まりという雑学を披露する。「嘘だけどね」「なにそれ」呆れながらも、少しだけ口角が上がるのを見逃さない。彼女のほほえむ姿を、写真に収める。 【独特孤読】 寂しさを抱えた人達の前に孤書館は現れる。それぞれの痛みや、諦めが綴られた本を選んで読書会を開く。みんな集まったって結局、みんなひとりには変わらない。それでも人種や性別、年齢や言語も違うけど、ここに溢れる独特の雰囲気が好きだ。俯く顔を上げる。同時に目が合って、少し笑った。 【金のオノ 銀のオノ】 憎い同僚を始末するため、事故に見せかけて泉に投げると女神が現れた。「あなたが落としたのは金の小野ですか?それとも銀の小野ですか?」「いや、普通の小野だけど…」「正直者のあなたには両方あげましょう」きらきら輝く同僚に戸惑いながらも、普通の小野がいなくなったから良しとする。 【晴る】 『やか』の付く言葉には綺麗なものが多い。あざやか、しとやか、すこやか。繊細な響きは私の心をおだやかにしてくれる。彼の「つまやか、ひよやか、おもやかなんて言い方もあるだろ」という皮肉をかろやかに躱して、今日も朝が始まった。なごやかな静寂に、そんな彼のやかましさを笑い合う。 【逢、哀、愛。】 「形あるものに永遠はないよ」私の頭を撫でながら博士は横たわります。「では、愛に終わりはないのでしょうか?」機械人形の私は多くの死を看取りました。「そうだね。今は途切れているだけさ」だから、二度と逢えなくなっても哀しくありません。数千年後の未来にも、愛は繋がっているので。 【生命賛歌】 「森でクジラの化石が見つかったとするね」波打ち際で彼女が話す。「ある人は『大昔は海だったんだな』と思うし、ある人は『地上で生きるクジラがいたのか』と思うし。要は捉え方次第なのよ」「どういう意味?」「私が人魚で、あなたが人間なのは些末な話ってこと」彼女の美しい鰭が揺れた。 【生命解放戦線】 全ての生命に高い知能が宿った。人間に虐げられてきた者達は復讐に燃える。猫は『にんげんふんじゃった』を演奏させ、花は人間の髪の毛を毟りながら占う。もぐらは家から出てきた人間の頭をピコハンで叩き、特に恨みのない羊は「人間が一匹、人間が二匹…」と数えながらやがて眠りについた。 【ぽんぽこ恋変化】 「私さぁ、実はタヌキなんだよね」幼なじみが不思議なことを呟く。「やっと力が戻ったから、相手の好きな人に変化できるようになったの」どろん!と声を出せば、煙がもくもく立ち込めるけど見た目は変わらない。失敗したのが恥ずかしかったのか、幼なじみは顔を真っ赤にしていた。……あれ?