ネバーマイラブ
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2025年11月23日発行 B6サイズ/74ページ 文学フリマ東京41にて発行。 ややいこしい人と素直な人の両片思い(学生)のお話です。 そういう表現はないのですがリバ風味です。 この本は、二部構成になっています。 第一部は、2022年に出した「ネバーマイラブ」を改稿して再録しています。 第二部が書き下ろしとなります。 ご注意ください。
sample・ネバーマイラブ1
ネバーマイラブ 1 1. 午前の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。 「はい、今日はここまで」 現代国語の教師が教卓を離れた。その途端に、てきぱきと教科書・ノート類を机にしまい、鼻歌を歌いながら鞄から弁当を取り出す。楽しい時間がやってくる。「よっし!」と弁当を持って立ち上がった瞬間、「食堂行こ~」という声とともに背後から抱きしめられた。 「えっ、来るの早くない? 行こうと思ってたのに」 振り返ると、親友の三上明が自分にくっついていた。香りでわかった。明はミントと柑橘、いろんな匂いが混じった香りがする。何かつけているのか、いつも良い匂いがするのだ。 立っているだけで声を掛けられるような人気者なのに、クラスの誰もまだ明の存在に気付いていない。オーラを出したり消したりと妙な才能がある。 「明、四時間目ちゃんと授業に出た?」 「ちょっと、保健室にいました」 「またあ?」 しょっちゅう保健室に行っているのだ。体が弱いというタイプでもないんだけど。前に友人たちが、保健室で何をしているかわかったものじゃない、とか言っていたっけ。 「おなかがねえ」と腹を擦るのを見て、思わず「え、大丈夫?」と声が出た。 「うん平気」 にっこり笑って、「今は腹が減ったよ、俺は~」と、体重全部をかけて寄りかかってくる。 「さっきまで痛かったくせにー」と笑うと、明も笑った。その途端、キャッと黄色い声が聞こえる。明がひらひらと手を振って応えるから黄色い声が更に大きくなる。明と一緒にいると自分まで目立ってしまう。 皆の目が恥ずかしい。巻きつけられた腕を解くと、明の笑う気配があった。不意に、明の服装が気になった。長袖を着ている。九月といえどもまだ暑く、クラスメイトの大半が半袖を着ている。そんな中、明は薄手の紺色のカットソーを着ていた。季節の先取りはおしゃれの基本だと前に兄姉の誰かが言っていた。片や自分。肩が見えそうなくらい圧倒的な半袖だ。明日からは自分も長袖にしようと決意した。 食堂は空腹の学生たちで活気づいていた。視線を巡らせると、窓際のテーブルに友人達を見つけた。明は食券機の方へ向かい、弁当持参の自分は人混みをかき分けて友人たちのテーブルに合流した。黒髪おかっぱ女子の前に腰を下ろす。 「光が親子丼食べてる。明もそうするって言ってたよ。やっぱり双子だ!」 「なにそれ」 眼鏡越しにじろっと睨まれてひるむ。光は明の双子の妹だが印象が全く違う。いつも口を真一文字に結んで、髪型の印象もあいまってとっつきにくい。見た目が全く似ていなければ、中身も全く似ていない。光は厳しく、明は柔和だ。双子幻想を見事に打ち砕いてくれた二人だけれど、昼食に選ぶものは同じ。たまにこうしてミラクルを見せてくるからやっぱり侮れない。 「明と一緒なんてげっそりする」 「光のゼータク者。いいなあ、明ときょうだいで。もしも明が双子の兄ちゃんだったら毎日感謝する。神に」 十字を切るふりをすると、光は「うえぇ」と顔をしかめて、周りの友人達は「出たあ!」と笑いだした。 「え、なに?」 「涼は本当に何でもかんでもアキラアキラなんだから」 「そんなことないよ」 「そんなことばかりでしょ、アキラ大好きっ子」と笑われる。そんなにだろうか。まあ、好きなのは好きだけど。あんまり言われると恥ずかしい。 明、早くこないかなあ、とあたりを見回すと、当の明はどんぶりの乗ったトレーを持って誰かと話をしていた。人気者だからすぐにああやって誰かに捕まるのだ。早くこっちに来ないかな、と思った途端、目が合った。自分の気持ちが聞こえたかのようなタイミングで話を切り上げてこちらにやって来た。明には自分の気持ちが全部筒抜けなんじゃないかと思うことがある。 合流した明は自分の隣に座るなり、「あ、機種、変わってるじゃん」と向かいに座っているマモルに声を掛けた。 「マモちゃん、この前トイレに落としてたもんね。なに、やっぱ水没はだめだった?」 マモルは渋い顔で頷いた。 「やっぱ水はダメだわ。水と機械って壊滅的に不仲。水に強い機械ってあるんかな」 水槽のポンプが浮かんだけど黙っておいた。 「風呂で電話するのは金輪際やめようって思った」 「だねえ。っていうか、風呂の中にスマホ持ち込むとか、浮気してるみたいだよね」 「アホ」とマモルが呆れる。「どういう意味?」と明を見ると、「涼は可愛いねえ」と明が頭を撫でてきた。今のはバカにされた気がしたので、「ヤメロ」と乱暴に手を払ってやった。 「明、アプリの設定で分かんないところがあるんだよ。教えて」 マモルがお願いすると、「いーよ、後でね」と明が受けあう。「アプリの設定」ってなんだろう。兄の許可が下りないから、この場では自分だけスマートフォンを持っていない。だからこういう話は遠く感じる。 「スマホってあったら便利?」 自分にスマホを持たせない兄が作ったポテトサラダを箸でつまみながら、明に尋ねる。皆が持っていて自分だけ持っていないというのはなかなかつらい状況だ。 「まあ、遠くにいる人に用がある時はやっぱり便利だね」 「いいな。俺も欲しいな」 明にしか聞こえないような声でつぶやくと、「涼はスマホを持ったら誰に連絡するの?」と明も自分にだけ届くような小さな声で返してくれる。 「明」 即答すると明は笑った。 「じゃあいらなくない? いつも一緒にいるでしょ」 そう言いながら体を寄せて、肩と肩をトンッとあててきた。明のにおいが、ふわっと香った。こんなやり取りは初めてじゃない。今までも何度もしたことがある。でも明は毎回、自分の寂しい気持ちに合わせてこんな風に言ってくれるのだ。
sample・ネバーマイラブ2
ネバーマイラブ 2 1. 今日の四限目は調理実習だった。メニューは、ミートソースパスタとカップケーキ。どちらも生まれてから一度も作ったことがないし、作ろうと思ったこともない。うちの班長が料理に慣れていて、メニューづくりから分担まで決めてくれたから、俺の班は手際良く進んだ。メニューは各班の自由になっていた。ほとんどの班はご飯系で終わるのに、うちの班だけデザートまであって羨ましがられた。 「すごく美味しいね」 同じ班のメンバーの女子のセリフに頷く。こんなのが学校で食べれるなんてラッキーだ。 「ミートソースって、作れるって思わなかった」 「わかる。ミートソースの素みたいなのがあるんだと思ってた」 そのセリフに、頼れる班長が「あるのはあるけどね」と笑った。 「カップケーキも美味しい〜」 「甘さ控えめ」 「家に帰って作ってみよーっと」 みんなすごく楽しそうだ。気持ちが分かる。調理実習なんてたいして思い入れがなかったけど、今日はすごく楽しかった。 「名取くん、ラッキーだったね。カップケーキ」 「あ、うん」 俺は一個多めに作られたカップケーキの争奪じゃんけんに勝っていた。あんまり役に立っていなかったから「俺は良いよ」と辞退したんだけど、「それじゃ楽しくない」と言われて参加した。そうしたら勝ってしまった。みんなが「無欲の勝利」と笑っていた。 「ほんとに俺が貰って良かったのかな」 「洗い物してくれたじゃん」と班長が言ってくれた。人格者だなあ、同じ高校生とは思えない。 「いらないなら俺にくれ」と同じ班の男子が言ってきた。俺以上に棒立ちだった奴だ。 「あげるとしても、絶対お前じゃないよ」 俺が断ると、周囲がどっと笑った。 食後にもう一度、全員で調理室を掃除してから授業は終わりになった。時間はもう一時になりかけていて、俺は早歩きで食堂に向かった。食堂が近くなると、食べ物の匂いがしてきた。今日はお腹がいっぱいだったから、あまりそそられない。次々に食事を終えた人たちとすれ違って、明達はまだいるかなって不安になる。つま先立ちになって、いつも仲間たちがいる席の方を覗くと、明の後ろ姿が見えた。 良かった、いた。 今日の明は髪を一つにくくっている。無造作な感じで。明はああいうのが本当に似合う。あんな髪型ができる奴なんて明以外にいない。 「涼くん涼くん!」 手を振ってくるさやかに、俺も手を上げて挨拶をする。明が振り返ってきた。俺の手元を見て、「何か持ってる」と笑った。 「カップケーキ」 明が目を丸くする。じゃんけんでもらったのを明にあげようと思って持ってきたけど、明ってカップケーキとか好きだったっけ、と今さらながらに思う。まあいい。とりあえず座りたい。明の両隣はもう塞がっていた。 がっかりしながらテーブルを回り、明の斜め前、司の隣に腰を下ろす。司が「調理実習?」と聞いてきたけど、「うん」と生返事になってしまった。知らない顔があったのだ。明の隣に見たことのない子が座っている。相手も俺のことを知らない人を見るような顔つきをしている。少し緊張していると、「涼。この子、歩夢っていうんだよ。一年生」と明が名前を教えてくれた。その途端、紹介されたその子が「だから、木佐って呼んでくださいってば。下の名前、いやなんです」と明の腕を掴む。 「いい名前じゃん。ぴったりだよ」 「字が嫌なんです」 「名前を呼ぶ時に、字は関係ないでしょ」 「まあそうなんですけど」 みんなが笑っている。俺が来るまでに、すでにこのやり取りがあったんだろう、当たり前のように笑っている。自分だけ途中から映画を見ているような気分だ。 「あ、あれが涼くんね」 今度は明が俺の名前を木佐くんに告げた。木佐くんが俺を見て小さく頭を下げてきたから、俺も同じことをした。 「まさかそれが昼飯?」 明の左隣にいたマモルが聞いてきた。カップケーキの存在を思い出す。 「あ、調理実習で作ったんだ」 「涼くんの班、カップケーキだったんだあ!」 さやかの声が聞こえる。少し奥の方にいるから、身を乗り出して「そうだよ」と返す。 「一個余って、じゃんけんで勝ったから貰ったんだ。明って、カップケーキ好き?」 俺のセリフにその場がどっと沸いた。「出たー」と笑われる。笑われることは言っていないので面食らう。 「なに?」 「アキラアキラ、明中心!」 マモルに冷やかすように言われて、ムッとする。 「中心とかじゃなくて、美味しかったし、明も食べるかなと思って持ってきただけ」 「だからそれが明中心なんだって」 まだ言ってくるマモルを遮るようにして、明が「俺、カップケーキ大好き」と言ってきた。明のセリフに気持ちがパッと明るくなる。 「はい、あげる」 受け取った明は袋を見ながら、「美味しそうだね」と笑いかけてきた。良かった、本当に好きみたいだ。 「チョコチップが乗ってる。ありがと、涼」 「美味しかったよ。俺はほとんどなんにもしてないけど」 笑う明の隣で、木佐くんが明の顔を見た。 「明さん、甘いものとか食べるんですね。意外です」 言われた明が片眉をあげた。 「なんでよ。食べるに決まってるでしょ」 「明さんって、コーヒーとかサラダとか、そういうの食べてそうなイメージです」 「俺がさっき何を食べてたか、見てたよね?」 「肉うどんとおむすびでした」 木佐くんのセリフに、明が「そうそう」と頷く。 「俺はあらゆる美味しいものを食べるんだよ」 明は適当に言っているのに、木佐くんは熱心に聞いている。メモでも取り出しかねない雰囲気だ。なんだか胸騒ぎを覚える。そう言えば、なんで一年生なのに、二年の俺達と一緒にいるんだろう。気になる。いつもなら「なんでいるの?」と聞けるけど、今日は出来なかった。 「俺らの班は何を作るんだっけ」 明の質問に「焼きそばとリンゴ飴」と司が教えてあげる。明と司は同じ班みたいだ。いいなあ、楽しそうな班だ。 「そっかあ。祭りみたいなメニューだよね」と明が他人事のように言っている。 「リンゴ飴って作れんの?」マモルの疑問に、司が「そうみたい」と頷く。 「私は絶対お祭りでリンゴ飴買うんだよねー」 さやかの声が聞こえる。そう言えば、俺はリンゴ飴を食べたことがない。 「リンゴ飴って美味しいの?」 誰にともなく言ってみると、明が「美味しいよ」と拾ってくれた。 「今度のお祭りで食べてみよ?」 毎年十月最後の週末に、近くの神社で秋祭りが開かれる。今年も明と行くことになっていた。去年も行ったけど、ほとんど覚えていない。楽しかったことは確かだ。明と行くとなんでも楽しい。ガガッと席を立つ音が聞こえた。光がトレーを持って立っている。そろそろ時間だ。皆も片付けを始めて、この場はお開きになった。 昼の授業までもう少し時間があったから、明のクラスに付いていった。木佐くんも来るかな、と少し緊張していたけど、途中で一年生の校舎に戻っていった。 最近明のクラスは席替えがあって、明は今、明いわく「最高の席」に座っている。校庭に面した窓際の一番後ろ。確かに日当たりが良くて、体温の低い明には良さそうだ。俺だったら眠たくなりそうだけど。 「ねえ涼、これ、食べて良い?」 さっき渡したカップケーキのことだ。 「うん」 どうせ明の教室に来るのだから、ここで渡せば良かった。食堂でみんなのいるようなところで渡したから、必要以上に目立ってしまった。マモルに冷やかされたし。 「そう言えば、食堂で何も食べてなかったけど、カップケーキだけで大丈夫なの?」 「パスタも作ったんだよ」 「そうなんだ。何パスタ?」 「ミートソースパスタ」 「おー、いいねえ」 明が楽しそうに眉を上げながら、カップケーキの上の方をつまんでヒョイッと口に入れた。もぐもぐと口を動かしながら、「美味しいよ」と言ってくれた。 「良かった」 「司もお呼ばれする?」と冗談めいた口調で司を誘う。司が「いい?」とわざわざ俺に聞いてきた。驚きながら「もちろん」と頷く。司が一欠片を摘むのを見ながら、さっきみたいな渡し方だと明しか食べられない感じになるよなあ、と気がついた。みんなで、って形にすれば良かったな。そんな大きいものでもないけど。それかいっそのこと明以外に誰もいない時に渡す、とか。気が回らなかったな、と反省する。明中心って言われるのも仕方ないかも。なぜだか、さっきまで一緒にいた木佐くんの顔が頭に浮かんだ。サラッサラの真っ黒な髪の毛に、キラキラ光った大きな目。木佐くんは、俺のことをなんて思っただろうな。 「木佐くんって、何で知り合ったの?」 「ああ」と明が右の口角を上げる。 「朝、落とし物を一緒に拾ってあげたんだよね」 「それだけであんなに懐くか?」 司が突っ込んだ後で、「朝からずっと来てたんだ」と教えてくれた。 「落とし物って、何を拾ったの?」 「えー? カバンの中身とか」 「カバンの中身?」 「そう」 それだけじゃないはずだ。きっともっと、何か、木佐くんの心に残ることをしたに違いない。明はわざと自分を小さく語るところがある。 「朝からの勢いだと、さっきも教室までついてくるかと思ったけど」 「次は体育で着替えがあるとか言ってたよ……噂をすれば、出てきた」と校庭を指差す。明と一緒になって目を向けると、体操着に着替えた木佐くんが、こちらに向けて大きく両手を振っていた。明が困ったような顔をしながら、手を小さく振り返す。心にモヤっとするのが生まれる。その途端、明がこっちを向いた。 「調理実習ってエプロンつけたの?」 「え? うん」 「何色?」 変なことを聞くなあと思いながら、「紺と白」と答える。 「どういうこと? 二色なの?」 「じゃなくて、しましまになってて」 説明すると明が笑った。なんかおかしかったかな。 「似合いすぎでしょ、それ」 「見てないくせに」 「見なくても分かるよ。涼の猫っ毛にストライプのエプロンとか、可愛すぎる組み合わせ」 台所に投げてあった兄ちゃんのものを勝手に持ってきただけなんだけど。 「着た時の写真ないの?」 「あるわけないでしょ」と吹き出す。アイドルでもあるまいし。自分のエプロン姿なんて写真に撮るわけがない。でも、明くらいになると写真を撮る意味もありそうだけど。 「明のエプロンはどんななの?」 「……俺、エプロン持ってないかも」 「おい、うちのクラスは明日だぞ、調理実習」 「え、うそ、やばい」と言いながら、全く焦った様子はない。 「光の借りとこーっと」 「サイズとか大丈夫?」 双子でも、光は結構小柄だ。 「多分大丈夫」 本当かなあ、と言っていると予鈴のチャイムが鳴った。「じゃあね」と席を立つ。 二人と別れる時にもう一度グラウンドに目をやると、木佐くんと目が合った。もしかしてずっとこっちを見ていたのかな。見ていようといまいと、そんなのは木佐くんの勝手なんだけど、妙に気になった。


