メタモルフォスの在りか【ブルハイ】
- 500 JPY
2018年9月30日開催の『ようこそ!グランツライヒ王国へ!!2』にて頒布したものです。 イベント頒布価格と異なります。 <詳細> 画像2枚目は告知用画像です。 本文は小説メイン。漫画は4ページ程です。 ブルハイで、ブルーノが『夢』みる理想の世界の話です。 ・A5サイズ/28p
本文サンプル
『夢』と呼ぶには妙にリアルな光景だった。其処は何処かの室内の様で自分以外に誰も居ない。窓からは夕陽が差し込みこの部屋全体をオレンジ色に染めていた。此処は何処だ。ブルーノは自分の置かれている状況を把握する為、一先ず座っていた椅子から立ち上がり窓の外の様子を伺う事にした。窓は異様に大きく、人の手では開閉が出来ないタイプの物であった。ガラスに触れて外を覗き込めば地上から幾分か離れた場所にこの部屋は位置する様だった。恐らく、三階か四階であろう。下には自分と同じ様な服装をした人間が数人歩いていた。その奥にはテニスコートが四面、隣に広大なグラウンドがあった。先程の数人はテニスコートの角を曲がり更に此処から遠ざかり大きな門へと向かっている。其処まで眺めて漸く理解した。どうやらこの『夢』は学園の設定の様だ。恐らくこの服はこの学園の制服なのだろう。何時も王宮で着ているものと同じデザインだが、先程の数人も同じ服であった。そしてあの門はこの学園の出口か。ブルーノは短い間だったが軍学校に通っていた事がある。その時の記憶と自分の理想が混ぜこぜになった『夢』なのだと結論づける。 「ブル兄いるー?」 部屋の外、扉が軽くノックされた。この声には聞き覚えがある。ブルーノの二つ下の弟、リヒトのものだ。返事を返せば扉が開き、矢張り同じ制服を着たリヒトが入って来た。その背後にはレオンハルトの姿もある。二人の肩には同じデザインのバッグが背負われていた。 「ブルーノ兄様、生徒会のお仕事お疲れ様ですっ」 「どうしたの?会議はとっくに終わってる時間なのに全然昇降口に来ないから迎えに来たけど」 「ああ、ちょっと確認したい資料があったんだ。すまない」 咄嗟にデスクの上に置いてあった資料を掴む。同時にデスクの横に置いてあったバッグを肩にかけた。どうやらこの部屋は生徒会室で、自分はその一員の様だ。そしてレオンハルトとリヒトもこの学園に通っている設定らしい。…この二人の学力でも入れる学園なのだろうか。二人に促され部屋を出る前にもう一度窓の外を見る。先程よりも幾分か陽が落ち、夕暮れの空に薄らと闇が混ざり始めていた。その時不意に視線を感じ下を見ればぽつんと誰かが其処に立っていた。同じ制服なので、恐らくこの学園の生徒であろう。だが不思議な事にその生徒の顔だけがどうにも暗く、確認する事が出来なかった。 2 不思議な『夢』を繰り返し見る様になった。大概、朝起きた時に内容は忘れている事が多いが、学園に通う夢を見て以来、その内容をまるで実体験の様に鮮明に覚えているのだ。だが矢張り、所詮は脳の整理をする為に見ると言われている『夢』なだけあり時々不可思議な事が起こる。例えば急に場面が変わったり、天気が変わったりと様々である。それと気になる箇所がもう一つ。 「ブルーノ王子、論文をお返しに来ました」 その『夢』にブルーノが心から尊敬して止まないハイネが未だ出てこないのだ。その事に気付くと同時に『夢』から醒める。兄弟もいる、門番や王宮に仕える者たちは皆何かしらの形で登場しているのに、ハイネだけが未だに登場しない。自室の扉の向こうから声をかけられ開ければ、その王室教師は小さく会釈をして部屋へと足を進めた。 「王子、今回の論文も中々に興味深い内容でした。ですが細かい部分にまだ粗さがありますね。印を付けてありますのでご確認を」 「ありがとうございます、師匠…」 「…最近、体調が優れませんか?」 「えっ」 「十回」 「?」 「ブルーノ王子にお声をかけた回数です。何度か扉もノックしましたが返答が無かったもので」 「なっ、ももも申し訳御座いません!くっ、弟子であるこの私が師匠の声に気付かないだなんてなんたる…なんたる不覚っ!」 「あ、いつも通りですね」 「はいっ!」 それでは私はこれで。外套を翻しハイネが部屋を出た瞬間、ブルーノは大きく息を吐いた。気付かなかった。そう、普段のブルーノならまず有り得ない。ブルーノは先程まで微睡んでいたのだ。ハイネの呼びかけに気付かない位には意識が朦朧としていた。そしてあの『夢』の中の学園を歩いていた記憶が残っている。今までは夜眠っている時にしか見なかった『夢』を遂には昼間に見るようになっていた。 「これは良くないな…」 ハイネから戻ってきた論文に手を伸ばす。だが、思考がままならない。何故ハイネは『夢』に出てこないのだろう。教師か何かの役職で登場すると思っていたのに未だ確認できていない。 「まぁ所詮は『夢』か」 指摘された箇所を直すべく、資料を探す為に書庫へと向かった。その胸には小さな違和感が残ったままだった。