風見幽香 小説本
■情景
その花を咲き誇るのを望む者など誰一人としていないと聞く。
「これよ。墨椿の花。此処にしか咲いていないのよ」
陶磁器の艶を帯びた指先が指し示す、その先には一本の低木が生えていた。
冬に飲み込まれた森の片隅、咲く黒い椿の木を見て、はたては。
「何よ、これ……」
ただ、奥歯を震わせていた。
花と葉。
零れた太陽の日差しによって映し出された一枚の軌跡が描く絵は。
「この花は、墨椿。またの名を」
風が大きく吹き荒び、幽香の髪が希う様に踊った。
「咎告げの花」
その花は、人の過去を暴き立てると聞く。