ジムノペディが終わらない
- Digital100 JPY

パラノイド・ホラー小説『ジムノペディが終わらない』
【構成するイメェジ】 「ねぇ、お姉さん。ある種の虫の話をしてあげようか」 くたらと洋酒を溶かした様な色をした声が耳の奥を擽る。 「そいつは、決して一人きりでは生きていかれない。 如何しても、一人きりでは生きていかれない。 だから、最初に、ある魚のエラから、体内に入り込む。 そして、虫は、魚の脳内に住み着く」 「そして、虫は其処に工場を作るの。 一つの神経物質を作り上げ、脳の神経中にそいつを沁み込ませる。 其れは『正常さ』を失わせる物質。 自律神経、魚自身の『泳ぐ』と云う行為自体を狂わせ、破壊させる。 そして、破壊された魚は、川面の近い所で良く光る腹を剥き出しにしながら泳ぐ様になるの。 そうすれば、如何なると思う?」 【挿入されるイメェジ】 其処にあったのは、地面を覆う一面の紅。 流し放ちのシャワーが友人の裸の肩を濡らしていた。 一糸も纏わずに、メリーは青白い顔で風呂場の壁へと背中を預けていた。 右手には、剃刀。そして、左の内腿に大きく刻まれた、傷。 止め処なく溢れる赤が性器と股を濡らし、水に流されて、風呂場のタイルへと流れ続けていた。 既に、流れる勢いは少ない。 時折、ひくりと肩が震えている。 蒸気に混じって香る、生臭い、生きている証の、鉄が腐った様な匂いが鼻をつく。 【関連づけられたイメェジ】 掻き毟る。 くちゃぐちゃと吹き出物が潰れては、白い膿で腕を染め上げても、掻き毟り続ける。 膿が固まり、左腕がケロイド状に爛れていく。 其れでも掻き毟り続け、ばきりと肌が削れ落ちた。 剥き出しになった左腕の肉。 筋肉の繊維と繊維の合間、其処には無数の蟹がみっしりと詰まっていた。 かちきちと蟹が蠢く度に、痒みが増していく。 剥がれていない肌を掻く。 掻けば掻くだけ、肌が崩れ落ちていく。 蟹が満ちている。 身体の中を蟹が這い回っている。 吸引器を吸い続けて、煙を食み続け。 蟹が。蟹が。 【継続するイメェジ】 「未だジムノペディは終わらせないよ」