COCシナリオ「謎のオレサマン」
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クトゥルフ神話TRPG自作シナリオ集「耶話鳴え(http://www.yawanae.esy.es/)」にて無料公開しているシナリオをPDFデータにまとめた物です。
シナリオの概要
「俺に会ったが100年目! 悪党退散、大爆散! 俺が正義だ! オレサマン、参・上!」 夜闇を切り裂くような大声が響き渡った。20年程前にテレビで放映され、同時期に放送されていた他のスーパー戦隊シリーズにドップリと埋もれつつも、一部では熱狂的なお子様ファンを産んでいたのかもしれないと噂されるオレサマン。そんなマイノリティ・ヒーローが、真っ赤な装甲を身に纏って今宵も颯爽と登場した。彼はテレビで演出されるヒーローのように高く高く跳躍し、如何にも悪そうで絵に描いたような怪人へと、正義の拳を振り上げる。 ここ、耶奈江市では、連日のようにオレサマンが現れ、謎の怪人と激しい戦闘を繰り広げる事件が発生している。テレビでの放映から20年が経ち、今更のように現れたヒーロー・オレサマンは、誰が何の目的で扮装しているのか、いったい何の為に戦っているのか、その全てが謎に包まれていた。警察は器物損壊罪や軽犯罪法違反など、様々な罪で彼を追っているが、未だにその正体について、雲を掴むような状態でいる。 それはさて置き、探索者達の元に一件の依頼が舞い込む。依頼人・姫路正之の娘は一ヶ月程前から行方が分からなくなっており、その直後に家に空き巣に入られるなど、不幸なことが続いているという。警察には届けているものの、あのハタ迷惑なオレサマン事件で騒がしい昨今、警察の捜査だけでは何とも心許ない。 「男手一つで育て上げた大事な娘、何としても無事であって欲しい」 依頼を受け、依頼人の愛娘について調査を始める探索者達。その過程で彼らは、奇想天外なオレサマン事件にやっぱりガッツリ関わっていくことになるのであった。
シナリオの背景
姫路綾香は、世界的な製薬会社マーマレイド社に勤める「考古学者」だ。マーマレイド社は医薬品の開発・製造を主体とした企業だが、歴史的な遺産の保護やその研究の支援に積極的で、お抱えの考古学者を持つほどの酔狂な企業だった。彼女はマーマレイド社専属の考古学者として日夜、大好きな研究に明け暮れていた。 そんなある日、綾香はマーマレイドのイギリス本社から海外出張の下知を受ける。どうも本社が行っているグリーンランドでの古代遺跡の調査に、人手が足りていないらしい。綾香に伝わってくる本社からの情報は曖昧で、どうにも要領を得ないというか、調査すべき遺跡の名前さえも分かっていないのだけど、彼女にとっては胸が膨らむ初めての海外出張だった。 「仕事に観光に、現地を精一杯満喫するぞっ!」 そんな気合に満ち溢れて日本を発った彼女は、現地でその真っ直ぐな瞳を暗闇で濁らせることになる。 グリーンランドに降り立った彼女は、すぐさま目的の遺跡に案内された。グリーンランドの奥地に開いた、ほんの小さな穴から落ちるようにして進んだそこは、太古の神殿が地中に埋もれるようにして存在していた。それは古代とは思えないほど高度な文明によって造られた物のようで、一目見ただけで精神まで病みそうな彫像など、様々なアーティファクトが収められていた。彼女はどこか悍ましい遺物の数々に恐怖を覚えながらも、この歴史的発見に携われることを誇りに思い、発掘作業に着手する。そこが、怠惰な邪神ツァトゥグァの旧礼拝堂であり、マーマレイド社の忌まわしい計画の一端に自身が加わっているとも知らずに。 二ヶ月間、寝る間を惜しんで発掘作業を進めていた彼女は、地中から青銅の杯を掘り起こす。その中には太古の黒い液体が入ったままで、それに気付いた瞬間、その液体は杯からみるみる内に溢れ出してきた。零れた液体は地に落ち、そこで粘土のように形を作り始める。それは瞬く間に人ほどの大きさになり、水が煮え立つような声を上げたかと思うと、突然、綾香の近くにいた男の首を刎ねた。 逃げるのに必死で、その直後のことはよく覚えていない。気が付くと、彼女は洞窟の外にいた。洞窟内にいたマーマレイド社の者は、そのほとんどが命を失ったらしい。彼女は声を失い、放心状態だった。そんな彼女の傍らに、どこからともなく現れた外国人の男が立った。マーマレイド社の社章を胸に付けたその男は、綾香に声をかける。 「死にたくなかったら、このことは秘密にしなさい」 男は笑顔だった。その笑顔は、内に秘めた狂気が滲み出たものだと彼女には分かった。心が壊れそうだった彼女はその言葉に、頷くしかなかった。
シナリオの情報
作者:ホリ 推奨人数:3-5人 想定時間:4時間