【再販】ひとひらの真夜中を重ねる / キングダム / 信瘣 / 李信 / 羌瘣
- 800 JPY
【ひとひらの真夜中を重ねる】様々な夜の出来事 信瘣小説本 (短編集) / 全64P / 書き下ろしSSは4篇 (9P) * 時間軸は黒羊戦終了後〜鄴攻め終了まで ** ネタバレが多分に含まれますのでお気を付けください *** twitterとpixivで公開していたSSを加筆修正しております **** pixivではメインになる『手繰る(黒羊の夜)』の導入部分のみ現在公開中です(以降、公開予定はありません) ======================= 中途半端に目を覚ましてしまった。眠気と酔いでぼうっとした頭のまま、信は隣にある温もりに視線を移した。安心しきった様子でスヤスヤと眠っているその小さな姿を確認する。なぜ彼女がこの天幕に居るのか。数時間前の記憶を辿ろうとする。 不意に信は彼女の唇に手を伸ばし、指先でその輪郭をなぞった。自分と比べたら幾分も小さく出来ているそれは貝殻のような見た目とは裏腹に適度な厚みがあり、柔らかく艶やかな手触りだった。彼女の唇に、人差し指と中指が順に触れた時、規則正しい寝息がその指を滑らせた。掌が彼女の丸い頬に触れた。羌瘣は深く眠りながらも心地よさそうに眉を下げ、強請るようにその手にすり寄った。 「…猫みてえ」 その様子を見て、信の顔が思わずほころんだ。あまりにも可愛かったので、それならばと思い、彼女の頬をゆっくりと、何度も撫でた。自分の手、指先に至るまで、その皮膚の質感を覚えさせるように。 ひどく消耗した、黒羊での戦が終わりを迎えた夜だった。果敢に戦って散った者達に敬意を払い、またボロボロになりながらも生き延びた者達は無事を喜び互いに労って、皆思い思いに過ごしていた。 宴のさなか、信の肩に体重を預けて羌瘣がコクリと眠りに落ちた。羌瘣を気遣って何人かが彼女を天幕に連れて行くと言った。だが、思う存分に食べたり飲んだりしてあまりにも満足そうな顔で眠っていたので、そんな彼女をもし起こしたりしたら忍びないと思い、暫くここで寝かせておけばいいと信はその申し出を断った。小さな重みを、肩から自身の腿に移し、信は仲間に囲まれ歓談を続けた。 (手繰る【黒羊の夜】より)