季寄せ 田夏再録集5
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『季寄せ』 田夏再録集5 2018年8月発行 新書版/56頁/60g 2016年8月~2017年10月までに書いた田夏の短編小説の再録集。 ほのぼので犬の会的な内容の田夏本です。 田夏…というよりは田沼と夏目とその仲間たち…みたいなお話が主。
春うらら
夏目はどうしているだろう。 夕刻、家のことをしながら田沼はふと思った。 日中の気温がだいぶ春めいてきて、そろそろみんなと外で集まるのもいいかな…などと、昨日北本とも話していたのだが、最近体調をよく崩している夏目を誘ってもいいものかと、少しばかり悩んでいる。 他の二人には言わないけれど、夏目の身体の異変はすべて、妖しがらみで起こっているのだ。 むろん、夏目に言えば絶対に一緒に行くっと言うだろうけれど…。 「夏目もなぁ~、最近本当によく風邪ひくよな…あれは体力つけさせないとっ!」 本気で夏目を思ってそう言っていた西村の気持ちはわかるけれど、その原因が妖しだとは、もちろん言えない。 昨日から、また熱を出して学校を休んでいる夏目を気遣い、様子を見に行って思っていたよりもずっと顔色が悪かった彼のことが心底心配になった。 こっそり先生に事情を聞いて、やはり妖しがらみだったとわかるとそれ以上は何もできない自分に、悔しい思いもする。 「大丈夫だ…じきに治る」 ニャンコ先生がそういう風に話すのだから、そうなのだろうとは思うが、そんな時に傍についていてやれない自分が悔しい。 「そもそも、何を言ったところで、こいつが私の言うことを聞いたためしなどない。自ら奴らに関わっていくのだから、どうしようもないだろうが」 心優しい夏目は、人のことだけではなく、妖したちにまで心を寄せ、支えようとさえする。その度に自分へはね返ってきてしまう負の力のことなどお構いなしなのだから始末が悪いと、時折ニャンコ先生がぼやくのを聞く。 「夏目は優しいから…」 「自分の力量も分からずに、あれもこれも引き受けるこいつは大バカ者だ!」 そう口にするニャンコ先生が本気で夏目のことを心配しているからこそ、そんなことを言うのだと、最近ようやくわかってきた。 この大妖怪も実は、とても優しいのだ。 「夏目のこと頼むな」 そう言って家に帰ってきたものの、夏目のことが気になって仕方がない。 家に戻り次第、心配していただろう北本に連絡を入れる。 「そうか…じゃあ明日も無理そうだな」 「なあなあ、夏目どうなんだ?」 翌日、学校に行くと早速西村が声をかけてきた。 もちろん、今日も夏目は休みだった。学校に来る前に藤原家に立ち寄ると、「熱がね、まだ下がらないのよ」と塔子が心配そうな様子を見せていた。 「まだ熱が下がらないって、塔子さんが…」 「もうすぐ春休みなのにな…」