同棲カラ一の一週間
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こちら、同棲しているカラ松と一松のゆっくりスローライフな小説となっております。 ※月曜日、火曜日、水曜日 やんわりと、おそチョロを添えております。 特別な何かがある訳でもなく。 だけど、本人たちからすればそれはとても意味ある日々たち。 喧嘩も仲直りも、変化も。 全てが眩しくて、目を細めてしまうような暖かで幸せな日常を~
本文サンプル
目を開けて、ふと目につく。 家を出るときに、お揃いで持ってきたおなじみの青のパジャマが目の前を占領している。いつも通りの朝にふぁっと一つ大きな欠伸。吐き出した息を取り返すように酸素を吸い込めば、一緒に香るのはカラ松の匂い。思わず甘えるようにすりっと鼻先を胸板に少しだけ押し付けて、ぎゅっと抱きしめられたままの腕の中からカラ松を見上げてみるが、瞼は閉じられたままで規則正しい寝息が聞こえてくるので、まだ起きる気は無いのだろう。 まぁ、今日は平日ではないので、このままゆっくりとした朝でも誰も咎めはしないのだからこのまま寝かせておくことにしといてやろう。 だが、僕の方はそうはいかない。家事に休暇などは存在していないのだ。 だから今日も、僕ら二人が過ごしやすいように僕は家の中で働く事にする。 カラ松は外で働いて、僕らが生活できるようにお金を稼ぐ。 僕は家の中で働いて、僕らが生活できるように家の中を整える。 これは、僕らが家を出ると決心した際に決めた役割だった。 まぁ、僕もこの提案には意義を唱える事無く快く首を縦に振った。理由としては、やっぱり外で知らない奴と一緒に働くなんて事が、僕にとって考えられない程嫌だったからだ。その点、僕は料理もそれなりに出来る方だったので家事全般を任せられた方が余程カラ松の役に立てるだろうと提案し、カラ松も『それは、一松が奥さんみたいで俺は幸せものだなセラヴィ!!』と嬉し泣きで顔をぐちゃぐちゃな状態で僕を抱きしめてきたので、これで二人ともの要望がのまれまるく納まった。 それに、やっぱり好きな人に『奥さんみたいで幸せ』だと言われてしまうといくら捻くれまくっている僕だって嬉しいに決まっている。 そして、僕の方は自分で役割に立候補しただけあり、いざ二人で暮らすようになってから僕が我が家の中の事に手こずるような日々はそう長くなかった。 カラ松曰く『もう少し不器用で、家事に奮闘する一松が見たかった』と意味の分からない理由で肩を落としていたが、出来たことに越したことは無いだろと脹脛を軽く蹴っておいた。 『ぎゃっ』と声は上げるものの戯れのようなそれに僕は反応を返してやらない代わりに、玄関まで黙って後ろを着いて歩く。 そして、僕の方へ向き直りにこりと一つ笑顔に最近のお気に入りなのか僕の前髪をあげて額に唇を寄せた。 『いってきます』 『ん、……いってらっしゃい』 ぱたんと玄関の扉が締まれば、カラ松とは暫しの別れ。ガチャンと無機質な音を響かせ言いつけられたようにきちんと施錠して部屋へと戻る。そして、うずうずと込み上げる嬉しさに従うようにくしゃりと笑みを零してから、二人分の朝食の片づけにとりかかる。 こうして二人きりで生活を始めてから、実家で暮らしていた時には顕著に見られた僕のツン要素はすっかり形を潜めた。そして気がつけば、家を出たカラ松の居ない部屋の中で一松はにやにやとだらしない笑みを零してばかりになっていた。あれ、僕ってこんな感じなんだ。まさに新発見とはこの事だ。まさか成人してからも自分の中の新たな感情を発掘されるとは夢にも思わなかった。 『んっだよ、そのしまりのないゆるゆるたぷたぷな顔は!幸せでも頬袋に詰め込み過ぎたんですかー?そうですか、よかったですねーー!』 因みにこれは、この間なんの連絡も無く遊びに来たおそ松兄さんが、僕に向けて言っていた言葉だ。ほっとけ。自分でも最近まで気が付いてなくて、きっとカラ松だって知らない僕の一人きりの時限定の、込み上げる幸福ってやつが表面まで出てきた時の顔なんだよ。こんな顔見たくなかったら珍しく朝から勝手に押しかけるな。しかも、ちゃっかり朝ご飯まで強請ってきやがって。 まぁ、仕方ないから用意してやるけど、カラ松にバレたら拗ねるから頼むからバラさないでほしい。 『一松!俺と一緒にこれから先もずっと人生を歩んでくれ!』 『………は?』 『一緒に暮らそう!!俺がお前を養っていきたいんだ!』 カラ松が僕の両手を握りしめながらされた突然の告白と同棲の誘いに、なんの準備もしていなかった心と頭が自身の恋人の指す言葉を理解するのに数秒を要した。その間中もカラ松は不安に揺れる心をぐっと瞳の奥に押し隠しながらも、僕の返答だけをじっと待っている。そんなもの、答えは一つしかないのも分からないのかこのカラッぽ松は。 『嬉しい、僕なんかでよければカラ松の傍にいさせて欲しい』だなんてしおらしい言葉を僕が返せるはずもなく、代わりに僕は照れ隠しにネコパンチを食らわせ『んなもんよろしくお願いしますだ馬鹿野郎!!!!』と叫んだ。 あの日からそろそろ一年が経とうとしている。 最近では、喧嘩もなく平和に日々を暮しています。 月曜日から始まって、ゆったりと僕は変らず日々を過ごしてカラ松が帰ってくるのを待っている。そして、楽しみにしている週末に向けて僕もカラ松も一週間をこつこつと生きていて、僅かにだがそれでも毎日色を変えながら一週間が過ぎていく。 始めのうちは、やっぱり不安な事が多かった。公共料金ってどうやって払うの?!住民票って何?どうしたらいいの?!ばたばたと分からない事があれば、母に電話して四苦八苦したものだ。けれど、こうして二人きりの生活が始まって数か月も経てば、何とかなるものなんだな。なんて楽観的な考えまで浮かんでくるのだから、すごい。 不安な事も確かにあるけれど二人で、こうして僕らの家を作っていくってのは案外楽しいよ、カラ松。 01.月曜日 ぴぴぴっと電子音が響き、僕は手を伸ばして音源であるスマホを捕まえて音を止める。一度ふぁっと大きく欠伸を零してから、なるべく音を発てないように注意しながらベッドから降りる。最近漸く暖かくなってきたとはいえ、やはり朝方はまだ少し冷え込むので、壁にかけてあったカーディガンに腕を通し、寝室を抜け出す午前6時。 僕らがニート時代だった頃はこんな時間に起きだすなんてことは無かった。流石にもう慣れたが、初めの一ヶ月間は本当に大袈裟な表現ではなくて断腸の思いでベッドから抜け出していたものだ。それが、今では目覚ましが鳴る少し前に起きだすことだってある程にまでこの生活リズムにも慣れてきた。 「んー……昨日の残りは弁当に入れるとして、朝飯は鮭と味噌汁……目玉焼きでいいか」 冷蔵庫の中身を覗きつつ一人で今朝のメニューを声に出しながら、頭の中で何を作るかと、何から手を付けていくかを逆算していく。一松はこんな風に黙々と作業をするのは得意な方だ。だからこそ料理も実家にいる頃には、そこそこすでに習得していた。料理は誰かとコミュニケーションをとる必要もなければ、誰かと一緒に作業する必要性もない。謂わば完璧に個人プレーなのだ。ほらね、僕向きって感じがするでしょ?ひひっ かちょんと水を張った鍋を火にかけて、そこに出汁用の昆布を放り込み、テーブルに置いてあった紫のエプロンを身に着け腰の辺りで結べば気分が切り替わる。そんな気がするので、一松は家事をするときにはこのエプロンをする習慣になっているのだ。 そのエプロンにはネコを象ったポッケが二つ付いており、首元には黒のネクタイがあしらわれている。言わずもがな、これはカラ松からのプレゼントである。カラ松が会社から帰ってくる道すがら見つけた小さな店。そこは、流行りの個人の人が一つ一つ丁寧につくった物を委託販売している店だった。店内には手作りの物ばかりが置いてあり、制作者もバラバラだからか統一感こそないが、どことなくそれが良い雰囲気を醸し出しているから不思議だ。そんなお店で、カラ松が丁度店外にも見えるようにディスプレイされていたこれを見つけ『きっと一松に似合うぞ!』と直感で購入したのだそうだ。だけど、いくら六つ子の中で僕の配色が【紫】だったとしても、エプロンまで紫ってどうなんだろう。紫のパーカー着て、んでその上から紫のエプロンだろ………なんだこれ、大丈夫か?全身が紫で支配されてんだけど。まぁ、別にいいけど……猫、可愛いし。何より、カラ松が選んで買ってきてくれたのが嬉しい。なんだよ、これ見て僕の事想いだすなんてさ、馬鹿じゃねぇの。普通に好きだわくそがっ。 そんな事を胸の内で惚気ながらも、手際よく味噌汁を作り、その隣のコンロを使ってふっくらとした黄色の卵焼きを作る。カラ松は甘い方が好きなので、我が家の卵焼きはずっと甘い卵焼きの中に少しだけ味付けをして作っている。ある日は普通の卵焼き、違う日はネギ、カニカマの時もあればチーズを入れる時もあった。だってほら、毎日同じ卵焼きだと飽きるでしょ? 『おれは、一松が作ってくれてるってだけで飽きる事なんかない』 は?なんの自慢なんだよ、胸を張るなクソ松。そんな風に悪態を吐くけれど、結局僕もカラ松の事が好きだからそんな言葉一つで、次の日も早起きをしていつもよりも張り切って弁当を作ってしまうのだけれど。 「今日は………まぁ、月曜だし普通のでいっか」 週の初めだし、特に変化球を入れない方がいいだろう。あと、月曜日から面倒だし。 冷蔵庫から卵を一つ取り出して、一人用だか弁当ようだか知らないけど普通の卵焼き器よりも小ぶりなそれを弱火で温めながら、卵に砂糖を入れ味付けをする。後は、肉大好きなカラ松のリクエストに応えて作った昨夜のから揚げも出し、小さくちぎったレタスの上に三つ程弁当箱の中に入れてから、そのから揚げと次のおかずとの間にバランを一枚かませておき、卵焼きを作る。 じゅっと卵の焼ける音と一緒に、ふわりと香る砂糖の甘い香りに『あぁ、また月曜日が始まるな』なんて事を今更ながら感じる位には、この朝の支度に慣らされているわけで。今日からまた暫く、社会人らしくカラ松は外に出て、僕にはわかりっこない仕事とやらに奮闘するのだろう。 そう言えば、二人で暮らしだして暫くの間は弁当を作っていなかった。だってほら、流石に朝も夜も僕の作ったご飯じゃ味に飽きちゃうかなって思ったんだ。せめて昼飯位は違う味を挟んだ方がカラ松の為だと思っていたんだ、けど。そんな考えは、酷く落ち込んで帰ってくるカラ松を見てから変わった。 アイツのメンタルだけは人と比べて頑丈にできているので、滅多な事でへこんだり落ち込んだりはしないと思っていたが、やはり社会というのは厳しい世界なのだろう。入社したての頃は『いちまつぅー』帰ってくるなり僕を後ろから抱きしめたまま離してくれなかった事もしばしばあった。こうなってしまうと、どんなに邪険に扱うような言葉投げかけても、御飯が冷めると文句を言おうが、自分が満足するまで離れてくれなくなるのだ。そのうち、うんともすんとも言わなくなったカラ松に困り果ててしまい、僕は元気のない猫を撫でるようにゆっくり頭を撫でて、落ち込む彼が満足するまで待つ事にしている。 大変、なんだろうな……僕にはわからないけれど、カラ松が辛そうなのは……僕だって嫌だ。 それからだ、僕がカラ松に弁当を持たせるようになったのは。昼間に見ていたテレビで『出来合ものや、コンビニ弁当などでは心身ともに元気にならない。元気の源は食生活から!』そんな風に、どこぞの料理研究家が力説しているのを聞いて『っけあほらし』と独り言を零しながら、ポテチを口に放り込んだ瞬間『一松のごはんは元気になるな!しあわせだなー』なんて、頬を膨らませて緩みきった顔で食卓に着くカラ松が脳裏に過った。だからだろうか、なんとなくこんな事一つで少しでもアイツが元気になれるのならって、気が付けばいそいそと買い物に出かけていた。 そして翌日。いつも通りの時間に出ようとするカラ松を玄関まで追いかけ、ぐっと押し付ける様に胸に当ててやる。 『ん……』 『へ?……どうしたんだ、これ……弁当、か?』 『いらないなら僕が昼に勝手に食べるけど』 『なっ、えっ!!だ、だめだ!俺の為に作ってくれたんだろう?!だったら俺が食べるっ!!』 『けっ、だったら初めからそう言って受け取りゃいいんだよ、ばーか』 僕の突然の行動に困惑した表情で固まったカラ松に、意地悪くべっと舌を出して憎まれ口を叩けば、漸く僕の言っている意味を理解したのだろう。途端に慌ててカラ松が僕から、青い手ぬぐいで可愛く結ばれている弁当をひったくる様にして奪った。そうそう、そうやって素直に受け取りゃいいんだよお前は。なんて事を口にしながら、カラ松の顔に視線を戻せばなんともいえない表情に拍子抜けする。 てっきり嬉し泣きで鬱陶しく抱き着いてくるとばかり思っていたのに。なんなの、こっちまでなんか変な緊張が走るんですけど。え、変な物は流石に入れてないけど。 宜しくお願い致します。