あめつちの詩
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ラヴ♥コレクション2016 in Summerでの既刊です。 三国恋戦記「羽扇」ED後の師弟の話です。孔明×花表記ですがほぼ孔明+花。後半どシリアスです。 ・孔明さんが花ちゃんを愛していない(ほんのり恋してる程度) ・花ちゃんが三国世界に残ったのを後悔するレベルで酷い目に合っている ・救われずに終わる(希望の光くらいは入れたつもり) ・私が「羽扇」ENDを心からバッドエンドだと思って書いている 最低この程度のシリアス要素がありますのでご注意ください。 孔明さんが花ちゃんに恋をするまでの物語です。後悔だらけで。 詳細なサンプル→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6788358 [本文の簡易サンプル] 花がここに現れたときから、世界は花を中心に動いている。 孔明がそう思うことは今までに何度もあった。例えば、玄徳軍には敗北の道しか残されていないと思われた博望の戦いを圧勝でもって切り抜けたとき。曹孟徳が川に落ちた花を自ら助け、自分から離れられないように縛りつけるような執着心を見せたとき。未だ若く慎重にならざるを得ない孫仲謀を国ごと動かしたとき。そのひとつひとつの出来事に孔明は密かに瞠目し、感動のようなものさえ覚えていた。 花は拙い。年頃の娘とは思われないほど言動は幼いし、その思考も実直すぎる。嘘をつくのがとんでもなく下手で、考えていることの大半は顔に出てしまう。それなのに、この国の殆どの人間は、彼女の根本的な願いを理解できない。 争いを無くしたい。戦争をなくしたい。人に死んでほしくない。花の願いはずっと一貫している。 理想と現実は違うものであることを理解することは、花にもできているように思う。そこまで愚かな娘ではない。だが、この国の人間にとって明日死ぬかもしれないことは「理不尽だけれども避けられない事実」だった。それは戦争のせいかもしれないし、飢饉のせいかもしれないし、無能な役人による圧政のせいかもしれない。定期的に流行る病のせいかもしれない。死ぬ理由など探さなくてもいくらでもある。 それを、花は受け入れない。普段の穏やかな装いが嘘のように、強い眼差しで拒絶する。 この国の人間とて、いとしい者が亡くなれば涙を流して弔う。だが、違う。彼女は違っている。 ああ、花にとって、「死んでも仕方がない理由」は自分たちと比べてとてもとても少なくて、平和な国とはそれが当たり前なのかと、孔明は愕然としたことがある。そして、がっかりした。驚いた己の心の端が、花の常識を「ありえないもの」として認識していたことに、失望を隠せなかった。異才と、伏龍と畏れられようと、自分はただのこの国の人間だ。つまらない常識を捨てきれない只の人だ。 ならば、あの笑顔が朗らかな、ふわふわとしたあたたかさだけで出来ているようなあの女の子を、この国は一体何にしてしまったのだろう。 そんな、堂々巡りで答えのない問いが、ずっと孔明の思考をさまよっている。 それでも、朝はやってくる。孔明は日の出間近の薄明りに急かされて、ゆっくりと体を起こした。