あなたに恋をするということ
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【新刊】『あなたと恋に落ちるということ』 文庫判/238p/全年齢 んしょさに/則さに/京さに/孫さに/歌さに/小豆さに/般若さに/うぐさに/八さに/大さになどなど… 刀さに短編集、すべての話は繋がっておりません。pixiv再録+未再録40000字ほど入っています。 以下サンプルは笹さにです↓ ─────────────────────────── 恋人にするなら年下の男の子に限る。かわいい、やわらかい、子犬みたいな男の子に。 年下の男の子はみんなかわいい。それぞれに背伸びと甘えと男くささが共存していて、それらが絶妙な具合で発露する。私はそれを見るたびに、青いなあ、と思い、口に含んでしまいたくなるほどの愛おしさを感じる。 だから、まあ、笹貫は最初からまったくの恋愛対象外なのだった。 この笹貫、最初こそ多少警戒したものの、すぐに気のいい男と知れた。その妙にダウナーなイイ声でもって様々を煙に巻く癖はあるものの、どちらかといえば面倒見のいいお兄さんタイプだ。本丸に馴染むのも早かった。根っから器用な男だ。 その笹貫と私は、飲み友達である。 酒の飲み方が合うのだ。はしゃぐでなく、酒に飲まれるでなく、ただゆるゆると、よしなしごとを交わしながら、飲む。そんな飲み方が二人とも好きなのである。 それに、何より。恋愛になりようがないから、深夜に部屋に上げても大丈夫なのだった。 そんなわけで、今夜も私の自室で深夜、静かな酒盛りがはじまる。 「お疲れ」 私たちの乾杯は決まってこれではじまる。 今夜の酒は笹貫とっときの芋焼酎である。何度か見かけたことのある有名な銘柄だったが飲むのははじめてで、私はまず、おすすめだというソーダ割りを受け取った。 「ありがと」 水面にしゃわしゃわとはじける炭酸が照明に燦めいて、まるで花火のようだった。私はグラスを受け取ってひと口含む。酒は思いがけず甘く、その後味を炭酸の刺激が華やかに広げて、とても美味しかった。 「ん」 「ど?」 「すごい。美味しい」 笹貫は満足そうに目を細める。 私はあらためて笹貫を見る。内番着姿の笹貫は、ごくリラックスした様子で片膝を抱えて座っている。その、力の抜けたポーズでさえモデルのように綺麗で、私はちょっと笑ってしまう。 「何?」 「いや」 カッコいいなって、と言うと、笹貫は「でしょ」とおどけて眉を動かした。 笹貫の手の中にはロックのグラスがある。流水を切り取ったかのように透明な、不純物を含まない氷が、笹貫がゆっくりとグラスを揺らすのに合わせてきらきらと光をはじく。 「で、今日はどうしたの」 「うん?」 「落ち込んでる。違う?」 違わない、と、私は俯いて笑った。 つくねを味噌ダレにからめて口に放り込む。私ってそんなにわかりやすいタイプでもないんだけどなあ、と苦笑しながら。 「ちょっと、失恋しただけ」 焼酎ソーダ割りをぐいっと飲む。涼やかな炭酸が味噌ダレの甘みをさっぱりと洗い流す。私は膝を抱えて座り直し、そこに顔を埋めた。