遠いあなた【オズ マンフー】
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2014年11月3日発行。頁数:38頁 マンボイ×フーカの小説になります。娼館ルートから、フーカがマンボイに娼館に二度と来るなと忠告されてからノーマルルートを迎えた後のお話です。PC版に沿った内容です。
本文サンプル
広場の中心にそびえたつ塔を囲むように、地面には無数の蝋燭が並べられ、巨大なアートを形成している。今日は年に一度の流星群祭の日。屋台が所せましと並び、祭りを楽しむ人々でどこも賑わっていた。 フーカはその喧騒の中、独りぽつりと塔の前で立ち、ある人を探していた。目を凝らして行きかう人々を眺めるも、彼女が探している人物は見当たらない。 (もしかして、マンボイさん、今日もお仕事なのかな。また会えたらいいのに) そのフーカの願いはむなしく、彼らしき人は見つけられずにいる。だが、フーカはほんの少しの時間でもまた話ができたらと願わずにはいられない。 彼の傍にいることがとても居心地が良かった。オズの人々と話をしている時とはまた違う心地よさ。足しげく毎週末、彼のもとに通っていたのだが、二か月ほど前に急にサロンに来るなと言われてから、全く会うことがなくなった。 もし、彼に拒絶されずにずっと彼に会い続けていたら、きっとこの祭りにも彼を誘っていたのだろう。マンボイと一緒に行けば、今日の思い出も独りで回るのとは比べものにならないほど楽しいものになっていただろう。 フーカは、ソウが経営する屋台でもらった流星群祭限定の星形のマシュマロをほおばる。マシュマロを星形にするという案はフーカが出したものだ。口の中でとろけるような甘さがとてもおいしいはずなのに、周りの喧騒を聴きながら独り孤独に食べる菓子ほどまずいものはなかった。 【中略】 とっぷり日が暮れた頃、簡単な夕食を取り、フーカは燭台を窓辺に置き、聖書の頁をめくる。灯された蝋燭の炎以外の明かりが一切ない教会は数メートル先に人が立っていても分からないほどの暗さである。これではせっかく教会に祈りに来た者が閉まっていると判断して帰ってしまいかねないが、民家は明かりが外に漏れないようにこの日のために厚いカーテンをつけるほどなのだから、仕方がない。一応、教会の扉はいつものように少し開けた状態なので、大丈夫だとフーカは思うことにした。 フーカ以外誰もいない教会は無音であり、そっと目を閉じ、耳をそばだてると、かすかに広場の喧騒が耳に入ってくる。その喧騒を聴いているだけで、幾分、心の片隅に小さく芽生えていた「寂しさ」が和らいでいった。 静かに目をつむる。瞼の裏に見えるのはマンボイの姿。暇をつぶすものが何もない教会でフーカは時々、空想にふける。もし、マンボイと祭りに行っていたら……。自分も一日だけ、修道服を脱いで、オズの屋敷に居候している時にいつも着ていたワンピースを着て、長い髪を風になびかせ、マンボイの隣を歩いていただろう。マンボイはどんな屋台に興味があるのだろうか。自分を気遣い、定期的に様子を見ては、「疲れていませんか」などとねぎらいの言葉を優しくかけてくれるだろう。そう想像するだけで、自然と顔がにやけてくる。幸せな妄想に浸りながら、フーカはいつのまにかこっくりと舟をこぎ始めた。