花よりほかに
- ¥ 400
2015年8月発行。うたの☆プリンスさまっ♪ファンブック。翔×春歌。 ■劇団シャイニング「天下無敵の忍び道」パラレル本 ■劇中の姫=春歌という設定 ■時間軸はドラマCDその後なので、CD聴いていないと分からない所もあると思います ■劇中の四人以外にもうたプリキャラ登場します ■万人向けハッピーエンドではなく、ほのぼの交えつつ若干シリアス寄り 無配付です。
花よりほかに
時は戦国、世は地獄。 武将たちの華々しい戦いの裏で密かに動く者達がいた。 彼らは忍、忍術に長け、影として歴史を動かす者達。 「――此度の護衛の任、わが里よりこの二名を遣わす所存にございます」 師匠の声が低く室内に響く。行燈の灯がほのかに揺れる薄暗い部屋の中、翔ノ助は隣にいる真影と共に深く頭を垂らしながら今回の任務を頭の中で反芻した。 『同盟のためお輿入れの決まった姫君が暗殺の危機に瀕している。大事な同盟ゆえ、輿入れの日まで彼女を何としてでもお護りせよ』 早乙女流忍者を抱える国の若君に持ち出された縁談、それは近隣大国にとってよほど都合の悪いもののようだ。 早乙女と肩を並べる謝意忍具流忍者を多く抱える彼の国は、早々に姫君暗殺を計画した。もちろんやすやすと暗殺させるわけにいかない殿は、計画を阻止すべく早乙女に姫君の護衛を命じた。そして任に選ばれ、姫君のいる同盟国へと派遣されることとなったのが翔ノ助と真影だった。 「……かなり若いね」 「ですが二人とも実力は里の上位に位置します。必ずやお役に立つことでしょう」 「ふぅん。君がそこまで言うなら期待しようかな。面を上げて」 許可を得て静かに顔を上げる。師匠の背、その先にこの場に不在の殿の嫡男である若君と、妹である件の姫君が鎮座していた。あまり顔は似ていない兄妹だ。 「お嫁入りが決まったけど、それ以前にぼくの大事な妹だ。どうかよろしく頼むよ」 「はっ、早乙女流忍者真影、誠心誠意、命に代えましても姫をお護り致します」 「同じく、早乙女流忍者翔ノ助、全力で任務を遂行致します」 決意を述べ、満足気に頷く若に対して妹姫は憂い顔のままだ。「……よろしくお願い致します」ぽつりとこぼれた声も弱々しい。 (……なんというか) 大人しくて気弱そうな姫だな。 それが、翔ノ助が抱いた姫への第一印象だった。 ********** 結果だけ見れば、翔ノ助と真影は無事姫を護り抜いた。 謝意忍具流からは二人の忍が刺客として姫を暗殺しに来た。分身の術を得意とする音也衛門と、異国から来た忍術とはまた違う妖術を操るセシル丸、そう二人は名乗った。 二対二。セシル丸の妖術に戸惑いはしたものの力量は互角だった。刃を交えお互いの手の内がだいぶ分かってきたところで、双方同時に撤退の合図が送られ、決着はつけられなかった。 「結局、あいつら取り逃がしちまったな……くそっ、逃げ足速すぎだっつの」 ぱんっ、と掌に拳を叩きつけて翔ノ助が悔しがる。撤退に従う音也衛門とセシル丸を追撃したが、あと一歩のところで逃げられてしまった。 苦い顔をする翔ノ助を、真影は怪我の治療をするための道具一式を取り出しながら淡々となだめる。 「ああ。しかし姫も戦場におられた殿もご無事だ。とりあえずの任は果たせた……つっ」 「おいおい大丈夫か? ほら、俺がやってやるから貸せよ」 「すまん」 治療道具を差し出すと、翔ノ助は慣れた手つきで真影の傷を手当し始めた。 セシル丸の妖術によって真影はかなり負傷していた。何度も雷を受け火傷のような傷が身体のあちこちにできている。 「見事にボロボロだな……あーあ、裾焦げてるぞ」 「俺は平気だ。着物も気にならん。だが姫に傷を負わせてしまった……まさか俺などをかばわれるとは」 「だよな。びっくりした。一国の姫さんがな……しかもあんな大人しそうなのに」 先ほど姫の負った怪我の詳細を聞いて翔ノ助は正直耳を疑った。忍同士の戦いの間に割って入るとは、まさかとしか言いようがない。 怪我をしながらも気丈に振る舞う姫の笑顔を思い出す。気弱そう、と思っていたが認識を改めた方がいいかもしれない。 その姫も今頃治療を受けているだろう。姫の姿を見た侍女たちが血相を変えて彼女を奥に連れて行っていた。 「俺が不甲斐ないばかりに……情けない」 ずーん、と重苦しい影を背負って落ち込む真影に翔ノ助は励ましの声をかける。真影は生真面目だから、必要以上に責任を感じてしまう節があるのだ。 「そんな気ぃ落とすな……つっても無理か。まぁ護衛は続行だし、次は名誉挽回といこうぜ」 「……ああ、そうだな。落ち込む時間があるなら精進し直さねばならん」 もう二度と、あの御方にかすり傷ひとつさえつけさせはせん。 力強く宣言する真影に、その意気だと翔ノ助も改めて気を引き締めた。