電子歌集 記憶喪失
- ¥ 0
2014年12月から2015年12月にかけてTwitterに載せた短歌の記録です。 ----- 試し読み ----- 2014年12月 ゆきゆきて 立ち止まりては 振り返る ずいぶん遠くへ来たとばかりに 侠客と 名乗りし時代は早遠く 今やここには野良犬一匹 何一つ変わらぬことを口惜しく思う、徒花一輪散ったところで 痩せ犬よ 怨め怨めと人は煽るが 素知らぬ目をして朽ちる美学よ からからと 笑うあなたのまぼろしを見る 今はもうない刃の切っ先 夕暮れに 揺れた首吊りの縄一本 手を伸ばせば間に合ったのに 酒瓶と火炎瓶とを肴に呑んだ 夢のまた夢新宿路地裏 戦えと声の限りに叫んだ夏に 手を翳しては血が乾きゆく 海を越え 砂漠を越えて戻って来たのに 花より白い骨が迎える 拳銃と ダイナマイトを懐に秘め 交わした言葉は棺桶の中 良き人と呼ばれたいのか そう尋ねれば おれはだれだと 老兵は笑む 置き去りに されしまなこが最後に見るは 唐獅子牡丹を待つ男 伸べた手を 振り払うしかできぬ身は 灰になるほど焦がれてたから 計算をせずには向かい合えぬまま 赤い花の記憶だけを残した ぼくだけの苦痛を知った顔をして ああでもあなたは分かってたのか もういちど 熱きその手を握りたし その度獅子を負うさだめとて ぽんこつと 罵られたしわが身にも しんしんと雪降り積もるかな またたけば 一面の白 我が骨も この雪ほどに白いだらうか 口ずさむ祈りのように君の名を あの日の天使は今はもうない 革命を起こすと猛る酔いどれの 凛々しき横顔嘘で良かった かたはらで共に老い朽ち逝きたいと 望みは届かぬ九千キロメートル 再会に涙す前に口吻ける 異国の戦士となりし白髪 ふるさとも ふるき友をも捨てさせる あなたの魔力に縊られても良い 劣等の炎に焼かれたこの身さえ 俺のものだと笑う傲慢 銀色を透かして見上ぐ鈍色に 揺れ舞う埃は誰かの魂 老いて未だ 口から滴る泥水を 唯一の武器と信ずるつはもの いずれまたお会いする日が来るでしょう 貸しはその時鉛の弾で これまでと 分かっているのに目を逸らし ありがと さよなら またあした 目覚むたびわれは他人であるようで 幾度もあなたの声で名を呼ぶ 白きまま戻る我が手は誇れるか それとも弱者の烙印なのか 熱風の先には未だなにもなく あなたに真似てただ歩みゆく 絡め合う指の熱さを忘れずに まなざしだけが私の武器だ 戻る道などはなからありはせぬ 愛しき友よ、いざ、さよならだ 「具合はどう?」「良くない中でもどれぐらい?」夢聴く声はあの日と変わらじ 交わらぬ道の向こうを行くものに 掲げて見せよう貴様の旗だ 曇天を小さな龍が昇りゆく 芋を焼いた煙のふりして おさなごの目の褐色に覚えあり 君の血を持つ柔らかな生 そのひとは味方でないと知っているのに 薄ら笑いを隠すbarrage もうすべて土になってしまったのです けれども蕾が、綻んでいるのです 誓いとか約束だとか永遠とか 綺麗事より明日の飯を ひいやりと冷たい指で内臓を 押し潰さるる虫の感情 体中に夏閉じ込めて寝る者の 夢をこっそり覗いてみたい 優雅にも野蛮にもなるひとつのからだ 鉄を噛んでもひたむきにゆけ 碧空に響くは道化の吹く喇叭 これが我らの無血革命 土深く埋め封じられた感性よ 虹かかる空に花開けいま 独裁の手袋は今も真白きまま 懐刀だけが穢れゆく 濡羽色ひるがえす様麗しき 絶対零度は今宵融けゆく 黒縁の中に広がる荒野にて きらり光った懐かしき名前 心無き者共の中にただひとり 輝く貴方あの日のまぼろし 其が勇姿しかと見たぞと獣が言う 背なを丸めた獣が言う