『franc』(CoC6版)SPLL:E110658
- ¥ 500
__________ フラン、と読みます。お間違えの無いように。 __________ いつまでも続きそうな暑い暑い夏の日だった。南の海から吹き付ける海風が鼻をくすぐり、気だるい湿気を身体中に塗りたくってきた。人気の少ない街中に陽炎がいくつもいくつも立ち上っていた。そんなまぼろしのような日の、朝と昼のあいまいな合間の出来事だ。 馴染みの駄菓子屋に行こうと思ったか、家族と海へ足を伸ばそうと思ったか。ともかく、家の前の道へひとりで歩み出た。そして、その姿を見つけたのだ。古くなって白んだアスファルトの上で、カラカラにかわいて死んでいた“彼女”の姿を。 あとは何にもなかった。目の前がすうっと暗くなって、あとに残るのは波音と蝉の鳴き声だけ。ただそれだけがくっきりと、思い出の海の底に眠っている。 金魚の名前はfranc この世で一番美しい名前だよ。
▼シナリオ・探索者について
人数:1人 時間:3~4時間 技能:基本探索技能 __________ ○導入・探索者について 八月末。あなたは、祖父・永藤宗司(ながふじそうじ)の訃報を受け、彼が住んでいた成伊町(なりいちょう)へと向かうことにした。祖父の遺言によれば、あなたのために残した“遺品”があるのだという。 祖父との関係性の都合上、探索者の年齢は20~30代とする。この条件を満たせるのであれば、どんな探索者でも構わない。 ○祖父の記憶 祖父・永藤宗司(ながふじそうじ)は不思議な人だった。水産業で財を成したという永藤の大きな本家に住まいながら、その部屋のほとんどを持て余し、ひとり書斎にこもっていた。かと思えば、不意に着のみ着のままでどこかへ出かけていくこともあった。 あなたはそんな祖父のことが好きだった。埃っぽい書斎を訪ねれば、祖父は皆に見せている仏頂面を崩し、誰よりも柔らかな笑顔で迎え入れてくれた。遠い国で出会った人や物、ときには不可思議な怪物の話を、子守歌でも歌うような優しい声で聞かせてくれたのだった。 祖父と最後に会ったのはあなたが小学生になったころ、盆に家族で帰省したときだった。毎年の恒例行事だったはずなのだが、それ以降家族で本家を訪れることはなかった。 ○祖父の飼っていた金魚 もうひとつだけ覚えていることがある。書斎の奥の窓際に置かれた古い金魚鉢で、真っ赤な金魚が悠々と泳いでいたことだ。彼、あるいは彼女の名前は「franc(フラン)」というのだと、いつか祖父が教えてくれた。 その“最期”も覚えている。最後に祖父と過ごしたあの夏の日、家の前に敷かれたアスファルトの上で、からからにかわいて死んでいるのを見つけたのだ。見間違えとは思わない。あんなにも大きく美しい尾っぽは、きっとfrancのものだったから。 祖父にはそのことを話していない。 理由は何でも構わない。
▼権利・注意事項
本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。 また本作は、クトゥルフ神話TRPG非公式シナリオ企画『余白のまち-unknown town-』参加作品です。 https://twitter.com/yohaku_no_machi?s=20&t=3LbO9MmT3xlvd5dT9CvFuQ 企画の形式上、「同じタイトル、トレーラーの作品」が存在する場合があります。あらかじめご了承ください。