本日は幸福(しあわせ)日和!
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A5 112P デジタル印刷 2024年3月10日発行 Twitterで2019年に毎日書いていた「ダリューン日記」と「陛下日記」を手直しした再録本。書き下ろしはありません。 紙媒体で欲しい方向けです。(倉庫にしていたPrivatterは全て非表示にしました。) 書き捨て的にはじめたので、辻褄や時代考証等を重要視する方より、なんでも楽しい方におすすめします。 『本日は戀愛日和!』『本日は結婚日和!』の続編、最終巻です。 ※横書きです。
本日は幸福日和!
ダリューン日記 1月1日(火) まだ起きたくないとぐずる陛下を宥め式典服を着せつける。仕上げと髪はエラムに任せて自分も着替えた。今日は一日陛下付きだ。警備の指揮は千騎長の精鋭が行うので最後の確認をし演説台の後ろに控える。甘えた表情が消えた陛下は誰がどう見ても立派な国王なことに少しだけ切なさを感じた。 1月2日(水) 一日中堅苦しい挨拶に息苦しい衣装で心身共にお疲れだったのだろう。人気のない庭で手を繋いで歩き誰がどうだったと今日来た人間のあれこれを脈絡なく話されるのを頭の中で整理して要注意人物を確認する。話してすっきりしたから明日からまた頑張ろうと思えると笑う頭を撫でて抱き寄せた。 1月3日(木) 知らぬ間にまたよくわからない遊びが始まっていた。おれは毎朝剃っているから薄く見えるだけで陛下とは違うのですよと説得を試みたが駄目だった。これは負けた方が良いのか勝った方が良いのかどっちだ。というかどちらに転んでも当たられるのはおれではないか。新年早々勘弁してください。 1月4日(金) お前本当に髭を伸ばしているのかと斑らに生えた口元を見て笑われる。伸ばさねばご機嫌を損ねるからな。おれだってどう見ても剃り忘れのこんな顔は嫌だ。部下にまで指摘されたのだぞ。それでもうまく生えるまで一緒に寝ないと言われてしまっては従う他ない。早く飽きてくださらないものか。 1月5日(土) さすがに汚い。濡れた顔を鏡に映し溜め息を吐く。今日も陛下はほぼ産毛。数本濃い毛が生えてきたと喜んでいらっしゃったがそれで満足してくれるとも思えぬ。というか陛下の髭は銀だから生えているのかどうかもわからん。正直得意げにされているのに合わせただけだ。まだ続けるのだろうか。 1月6日(日) 陛下の血が廊下に飛び散り悲鳴があがる。とんだ失態だ。良くて失職下手すりゃ打ち首。慌てて止血をするエラムを見ながら心配以前に阿鼻叫喚と化したこの場の後始末をおれがするのかと思うと気が遠くなった。腹を切ってお詫びしますと床に座ると飛んできたナルサスに後頭部を膝蹴りされた。 1月7日(月) 本日の議題はおれの処分をどうするか。ナルサスのおかげで首の皮は物理的にも繋がった。一ヶ月のペシャワールでの勤務は左遷という名目の査察だ。怪しい動きがあるから年明けには行かねばならないと話していたので丁度良い。陛下は暴れるだろうがここは軍師殿がうまくやってくれるだろう。 陛下日記 1月1日(火) ぬくもりを手放し難くてダリューンにぶら下がりながら寝台を降りた。午前中の式典が終わったら遊べますからねと言われ渋々派手くさい耳飾りをつける。演説用の露台へ出ると正装したダリューンが居た。いつもとは違う雰囲気に何度見てもドキドキする。今日はこのままなんていうのも良いな。 1月2日(水) 朝から新年の挨拶だの贈り物だのでひっきりなしに人が来る。夕刻になってようやく一息つけるようになったのでダリューンと一緒に散歩へ出た。食べすぎ飲みすぎで疲れていたから良い腹ごなしになる。夕餉はいらないなと言いながらそっと指先を摘むと冷えてきましたねと手のひらで包まれた。 1月3日(木) 恒例の新年の抱負に髭を生やすと書いたら怒られた。去年も威厳ある男になれなかったから今年は形だけでもそれらしくしたいのだとナルサスに人差し指を突きつけるも陛下は産毛くらいしか生えないではないですかと言われたのでダリューンと競争することにした。美しい髭を生やせるか勝負だ! 1月4日(金) 顔剃りはやめてくれと侍女を返そうとしたら髭以外は剃ってくださいとエラムに座らされた。ちょうど良い逃げる口実だったのに。どれくらい経てばキシュワードみたいになれるだろうかと目の前の彼女に訊いたら困ったように苦笑した。そりゃあんな立派にはならないと思うがその反応は傷つく。 1月5日(土) 顔を洗ったときに気付いたのだ。今日はいける気がする。少し伸びてきましたねと言うエラムに気分は上々。しかしどうだと見せながら朝餉の席に着くも誰も気付いてくれずダリューンが無精髭をなんとかしろと言われているのが癪に触る。こっそり剃ってやろうと思ったが共寝を断ったのだった。 1月6日(日) ダリューンの髭が様になってきた。ちょっと草臥れた感じがたまらなく色気を醸し出し女官たちも侍女たちも皆ダリューンをちらちらと見ている。これはどう考えてもまずい。エラムに羽交い締めを命じ剃刀を持って近づいたら思いがけない抵抗に遭い手を負傷。ナルサスにめちゃくちゃ怒られた。 1月7日(月) 左遷だと?! ダリューンが僻地への配置転換になったと伝えられる。あれは私が悪かったのだし怪我も大したことはないからと言うと貴方の言動一つでその者の処遇が決まる事を思い知りなさいと叱られた。謝っても私にはどうにもできません。命があるだけ良かったと思うようにと言われて泣いた。