あした世界が終わる日に
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「あした世界が終わる日に」P70/400円/文庫 おまけにしおりがつきます。 (内容サンプルはこの記事の下方にあります)
紹介文
---------- 斑目貘×蜂名直器 お屋形様でもハルでもなく、「蜂名直器」と貘さんのラブストーリーです。 pixiv公開中「終末のサヨナラ」とは連続した世界観になりますが、それぞれ単独でお読みいただけます。 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9815301 性描写あり。成人向です
1.明け方のディスカバリー
---------- 目がさめたのは知らない部屋のベッドだった。 パニックにならないようゆっくりと身を起こし、深呼吸してから慎重に周囲へ目をくばる。 ベッドランプにともる明かりのおかげで、暗闇ではなかった。先ほどまでまどろんでいたシーツから、清潔なリネンの香りがする。どうやら、どこかホテルの室内にいるらしい。 たっぷり広いベッドルームの東側が、床から天井まで一面の大きな窓になっている。趣味は悪くない。それなりのグレードの、ペントハウスかスイートだろう。 さしあたって危険な状況ではないようだ。はりつめていた緊張が、ほんのすこしだけゆるんでゆく。 ……どういうわけでここにいるのか、それは依然としてわからない。 おなじみの感覚だった。僕は記憶を失ったのだ。 すぐそばで、かすかに動くものの気配がした。ハッとして耳をすませる。となりに誰かが寝ているようだ。 シーツに包まったままの誰かは、スヤスヤと規則ただしい寝息をたてている。こちらに背を向けているので顔はわからないが、シーツの端からのぞく肌がなまめかしい。やせた肩の骨格は広く、成人男性のように見えた。 このときになって僕はようやく、自分がなにも身につけていないことに気がついた。下着もはいていない。あわてて部屋じゅうを見わたす。ベッドわきのソファに、衣類がふたりぶん乱雑に脱ぎ捨てられている。 遅まきながら状況がのみ込めてきた。とても信じられないが、これはどう考えても情事のあとだ。 となりで眠る背中にあらためて目をやる。 この人はいったい誰だろう。僕の恋人、なのかもしれない。いやらしい想像がいっぺんに浮かんできて、みるみる顔が熱くなった。 セックスの経験どころか、これまで誰かとキスをした記憶さえ僕にはない。ましてや、男同士で? 嘘のような話だ。 寝起きの、働きのにぶい頭で考える。彼が目ざめる前にここを立ち去るべきだ。ふたりが恋人同士なら、ボロを出さずにやり過ごすのはむずかしい。なにしろ僕は、彼の名前ひとつわからないのだ。 「……あれ? なんで起きてんの?」 当の相手に声をかけられ、思考はたちまち中断された。 もぞもぞと身じろぎする音がして、男がのんびり半身を起こす。 「なーに。怖いユメでもみた?」 僕はなるべく平静をよそおいながら、名前も知らない彼と初めて顔をあわせた。薄暗い部屋の中で、男の肌が白い。 彼はとてもハンサムだった。やさしい、きれいな顔をしている。 あまりじろじろ見るべきでないと頭ではわかっているのに、どうしても目をそらすことができない。 「ゆうべ飲みすぎたんじゃないの。あんた、酔っても顔に出ないからさ」 僕の顔をのぞき込むように、彼が鼻先を近づける。 ふしぎな色の瞳だった。まつ毛がとても長い。 うっかり見とれていたら、そのすきにチュッとキスされてしまった。あっと思う間もなかった。 僕の狼狽などおかまいなしに、彼はくり返しキスを重ねてくる。恋人同士なら、おどろくようなことではないのだろう。そのままギュッと抱きしめられて、むき出しの肌が触れあった。 お互いに全裸だということを思い出し、体じゅうの血がカッと熱くなる。 「ま……まって。まって」 知識がないわけではないが、知識しかない。本や映画でしか知らないことだ。ドキドキしすぎて心臓が割れそうだった。 (第一話「明け方のディスカバリー」冒頭)