クリスティーヌへ愛をこめて
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2020.02.23 春コミ新刊 サンプル→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12363748 ファントムとマスターぐだ子とカルデアに召喚されたサーヴァントの日常を歌に重ねて振り返る本。 ファンぐだ♀ 2部序までのネタバレを含みます。 これだけでも読めますが、前作「オペラ座の怪人へ愛をこめて」と合わせて読むとわかりやすいです。
本文
下から上へ叩きつけられる風。胃がヒュッと縮み込むような感覚。綺麗な夜空とそれに負けないくらいの摩天楼。 「ごめん! 座標がズレていたようだ!」 夢を見てるんだろうと思いたくなったが、ダヴィンチちゃんの焦った声にこれが現実だと思い知る。 下を見た。背の高いビルがたくさん輝いているのが見えた。見なきゃ良かったと、立香は後悔する。今更ながら息苦しく眩暈がしてくる。頭がくらくらするのを我慢し、みんなはどこだ、と周りを見渡した。少し上にサーヴァントたちがいることを確認した。はぐれた人はいなさそうだ。 バチンとその一人と目が合った。ニヤッと自分の口角が上がるのがわかった。 「アサシン! 着地任せた!」 少し離れた所にいた彼に届くように大声で叫んだ。遠目にもわかるほどキュッと一瞬眉根を顰めた彼は一気に立香に追いついたかと思うと、彼女を抱き込んだ。 「承知」 強く抱き締められた彼女の耳元で落ち着いた声がした。普段は冷たい体が温かく感じる。そのせいで自分の体が思ったより冷え切っていることを自覚する。今更になって体がガタガタと震え始めた。立香を抱くファントムの腕に力が入る。ビルの屋上が間近に迫っているのが見えて、思わず彼女は強く目を瞑った。 「そのままでいてください、我が歌姫」 立香の耳元で再びそう囁くとファントムは、ふわり、と屋上に着地するとその衝撃を逃がすようにそのまま近くのビルへと飛び移る。いくつかビルを経由して、地面に辿り着く。おれに合わせるように、他のサーヴァントたちも地面へと降り立った。トン、と地表に着いた後、丁寧な仕草で立香は降ろされた。地面に足を付けてよろけた彼女の手を取り、腰に手を回し、素早く支える。ドキリ、と立香の心臓が鼓動を打つ。 「あ、ありがとう、ファントム」 「影なる者に感謝はいらない。きみの為ならば、それが我が誇り、我が喜び」 思わず裏返った声にやばいと内心顔を顰めてしまったが、ファントムは特に気にした様子もなく常と変わらず歌うように告げた。 「マスター、怪我はないかな?」 共にレイシフトをしてきたアレキサンダーが声をかけてきた。するりと、ファントムが離れていく。手が離れていく際に、咄嗟に追いかけようとした自分の指に驚いて動きが止まった。その隙にファントムは数歩離れてしまう。弱く吹く風がいつもより冷たく感じた。 「うん、ファントムのおかげで平気だよ」 「そっか。アサシンって呼んで、彼が飛び出していくからびっくりしたよ」 「そうかな?」 ニコニコと笑う彼に、立香は首を傾げる。 「とっても信頼し合っているんだね」 「アレキサンダーのことも信頼してるよ?」 「そう? ありがとう」 紅顔の王子は笑みを深めると、ファントムをちらりと見て苦笑して離れていく。どうしたかと思い、彼女はファントムの方を振り返った。 「ファントム、どうかした?」 「いいえ、クリスティーヌ。何も、何も」 目を伏せてゆるゆると首を振る彼に、胸がツキリと痛んだ。そのことに彼女が首を傾げるが、後方から自分を呼ぶ声を聞いてそちらに駆けていく。 イレギュラーなことがあったけど、任務をこなさなきゃ。 素早く頭を切り替える。いつしか胸が高鳴ったことも痛みを覚えたことも忘れていた。