悪魔
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この物語に興味を持ってくださり、ありがとうございます。 【本作は】 ↓ “祝福”という仮面と、“破滅”という真実のあいだに揺れる、全八話のダーク・ファンタジー小説です。 舞台は、神の怒りによって荒廃し、文明の灯が細く残るだけとなった終末世界。 人々が崩れゆく日常に縋りながらも目を背け続けてきた「災いの源」が、一人の少女――フォメ・バットを通して、ゆっくりと輪郭を持ちはじめます。 彼女のそばでは、人が病み、死に、狂ってゆく。 それは偶然か、運命か、それとも… 静かに世界を蝕んでいたものの正体が明かされたとき、 それは「悪魔」と呼ばれるにふさわしい力と、意志なき無垢の容赦だったと知るでしょう。 ---------------------------------------------------------- 筆者が描こうとしたもの ▷ 祝福された少女が辿る“自覚”と“受容” ▶ 『悪魔』と呼ばれる少女は何をしたのか ---------------------------------------------------------- ・静かに心を蝕むダークファンタジーを求めている方 ・神や悪魔の“寓意”を内包した寓話的構造に惹かれる方 ・孤独と無垢、破壊と受容をテーマにした物語に興味がある方 そんな読者にこそ、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。 ゆっくりと崩れ落ちていく世界の中で、誰にも知られることなく。 少女は『悪魔』になります… ▽ これからもたくさんの読みやすい短編集を本にしてお届けします! 新作の通知のため、ぜひ BOOTHのフォローをして 応援よろしくお願いします! また、割引キャンペーンやプレゼント企画の告知などもしますので、 SNSのフォローもよろしくお願いします! Ⅹ(旧Twitter):@say6novel 著者:セーイ6
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更にもう一話ぶん! noteかPDFで試し読み出来ます! note↓ https://note.com/say6novel/n/na451ddfc6715 ------------------------------ 産声 彼女が生まれたのは、 重く灰色の雲が垂れ込める日、その晩のことだった。 狭い家屋に設けられた小さな産室。充分な器具も揃いはしない、湿ったシーツと油の匂いが入り混じるその場所で、少女は静かに産声を上げた。 夜を裂く、細くはっきりとしたその声は、家の奥に置かれた大きな古時計の音よりも、ひと際よく響いた。 「…産まれましたよ」 助産婦が冷えた手で赤子を包みながら、小さく告げた。 「元気な…女の子です」 疲れ切った母親は、ほっとしたように目を細め笑った。 「よかった…ありがとう。フォメ…あなたに会えて、 とっても嬉しいわ」 父親もまた、その小さな身体を受け取り、抱き上げる。 赤子は大人しく、産まれてすぐに泣き止んだ。そして、まだ開ききらぬその目でじっと、辺りを見つめていた。 「なんだか、じっと見つめてくるな…?俺の顔、そんなにおかしいかな」 父親がそう言って笑うと、母もまた口元を緩めた。 「何か気になるのかしら、ふふ、目の力が強いわねぇ」 少女の名はフォメ、「フォメ・バット」。 父母の姓を継ぎ、父母の想う美しい響きを宿した名。 ある朝、母の頭へ意味も分からぬ文字列が唐突に浮かび、二人がそれを口にすれば、胸の奥に灯るような温もりがあったのだという。まるで天啓のように。 我が子は、神の寵愛を受けているようだった。 同月(どうげつ)、地区内では七人の妊婦が出産予定だった。 そのうち四人の赤子が、妊婦の流行り病で流産。 一人の赤子は臍帯が絡まり、出産中に息絶えた。 もう一人の赤子は無事に出産したが、赤子は重度の奇形で、生後一日も保たず亡くなった。 同月、六人の赤子の命が絶える中、フォメだけが、神に選ばれたかのように無事に産まれ落ちたのだった。 お産を終え、神の御加護があったと安堵する父母の横、 「じゃあ他の子達は、神に選ばれなかったのかしら…」 助産婦がぽつりと漏らしたその言葉は、赤子の鳴き声に掻き消され、誰の耳にも届かなかった。 赤子の皮膚は薄く白く、綺麗に血管の透ける美しさで、呼吸や体温も穏やかなまま、無事に成長していった。 それから フォメが一歳になるまで、不思議なことが続いた。 それは不運や巡り合わせとしか思えぬような、事故や被害の数々であった。 ある朝、父親の職場の下層発電所が事故を起こした。 冷却機の破裂で送配電網が一時停止するもので、それは点検で未然に防ぐことの出来たはずの事故だった。 幸い死者は出なかったが、破裂に巻き込まれた数人は重傷を負い、その事故を機に発電所は閉鎖。 父は職を失った。 「いや仕方ないさ。もともと俺は余剰人員だったんだ。良い働き口だったが、どうにか他を探すよ…」 「でも、おかしいわよ。事故の前日が点検日だったのでしょう?異常は何もなかったって貴方も言っていたわ」 「まぁ、見落とすこともあるさ。それより、俺は怪我をしなくて助かった。それを幸運だったと喜ぼう」 父は笑ってごまかした。だが、その笑顔は疲弊が浮かんでいた。人々は食い扶持を探して生きるのに精一杯だ。 仕事など、どこにもないと分かっている。妻と幼い赤子のフォメを養う方法も、簡単には見つからないだろう。 それからしばらくして 近所付き合いの深い、隣人の訃報が届く。 よく訪ねてくれていた隣人の老婆。彼女は母の旧友で、フォメが生まれてからもよく世話になっており、代わりに子守をしてくれた恩を、夫婦ともに感じていた。そんな心優しい人物が、金品目当ての暴漢に襲われたという報せだった。 街のはずれ、金品を奪われただけでなく、顔を殴られて意識不明の重体。その後、満足な治療など受けられるはずもなく、息を引き取ったという。 「昨日、貴重なハーブを摂ってきてくれて、一緒にお茶を飲んだのよ…」 母はそう言って、空のカップを両手で包み込んだ…。 フォメが二歳になるころ 向かいの家に住む少女が、高熱を出して倒れた。 原因は不明。 少女の親は闇市を探し回り、なけなしの薬を手に入れてくるが一切効かず、 無力さに泣く声が家から漏れ聞こえる日々が続く。 「いつも、うちの子を気にかけてくれてありがとう」 ある日やってきた少女の母は、そう言って微笑んだ。 「フォメちゃんが窓から娘の部屋を見ているの、心配してくれているのね…でも、きっともう駄目よ…」 フォメの母はその事に気づいておらず、驚いた。 翌週、その少女は息を引き取った。 その報せが来た日の朝、まるで興味が失せたかのように窓から目を離したフォメに、母は気づいた。 その偶然に母はどうも、違和感を覚えたという。 フォメはあまり笑わない子だった。 泣かない子だった。 いつも静かに、大人しくしていた。 ぬいぐるみを与えても、外へ連れ出しても、歌を聞かせてみても、何かをじっと見つめている。 物静かで、手もかからず、誰にも甘えず、ただじっと、どこかを見ていた。 母は時折、そんな我が子にぞっとした。 それは例えば、ある夜のこと。母がトイレに立ち戻るとフォメが起きていて、じっと月を眺めている。 暗闇の中、何も言わずに。 「怖かったわけじゃ…ないの。けれど…寒気がしたの。あの子、私が戻るとシーツを被るのよ…。本当は夜通しずっと起きていて、何かを見てるんじゃないかって…」 父は「考えすぎだよ」と母を慰めた。 そんな父もまた、夜ごとうなされるようになる。 仕事はずっと見つからない。次第と不安に押し潰されるようになる。ある日、父が突然、古びた椅子を斧で叩き割り始めたとき。母は父よりも、父のその様子をただ黙って見つめるフォメの目に、震えたという。 「あの子はいつも私たちを見ているの…ただずっと、何も感じていないみたいに…」 そうしてフォメが三歳になるころ 父は若くして、肺を病んだ。 咳が止まらず、血を吐くようになった。 医者は診断を濁す、まったく原因が分からないのだ。 「風土病のようなものかもしれない」 苦しい生活の中でも、父は病気だけはしなかった。 しかし、それまで元気であった彼の身体は、急速に病に蝕まれ衰えていった。 母もまた、時を同じくして 倒れた。 原因は、睡眠不足と栄養失調。 母はフォメを献身的に可愛がった。それこそ、寝る間を惜しんで世話をした。自身の食事も分け与え、食事は日に一度食べれば充分だと言った。 家は静かになった。 父が寝室で咳をし続け、母は痩せた手でふらつきながら湯を沸かし、フォメはただ部屋の片隅に座っていた。 希望も、絶望もなく、家はただ静かだった。 両親が死んだ日 父が声を振り絞る。 「…フォメ、こっちへ…おいで…」 父は娘が近寄ると、震える手でその髪を撫でた。 「…かわいい娘だ。…どこかで、きっと自由に…ちゃんと、生きろよ…」 それを言い終えると共に、父は息を引き取った。 母はその手を取りさすっていたが、気づけば寄り添い枯れるように、父の隣で亡くなっていた。 両親が横たわるその傍で、フォメはいつものように何も言わず、ただじっと座っていた。 涙も流さず、笑いもしない。 どこか遠くを見るように、二人をじっと見つめていた。 ------------------------------ ここまで読んでいただきありがとうございます。 他にも多数の試し読みをご用意しております! 少しでも気に入った作品あれば、続きのご購入をご検討くださると幸いです! 今後とも応援よろしくお願いいたします。 https://note.com/say6novel/n/ne2726146a0e1
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