SEX
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引っ越してしまった幼馴染を追い、高耶は沖縄で直江と言う危険な男と会う。 直江は千秋と繋がっていた。福生にやって来た2人は組織に追われ、高耶と共に再び沖縄へ向かう。 チンピラ達のハードボイルドもどき。 直江―――凶暴で獰猛でマイペース 高耶―――男も女もたらしこむ性質の悪い小悪魔 千秋―――心配性で苦労性で貧乏くじ 綾子―――高耶大好き 美弥―――上に同じ 196ページ 2Cオフセット 表紙・まいこ様 同名漫画のパロディ
沖縄で、夏だった―――
「……はぁ……」 躯中脱力して、高耶はシートに沈み込む。 やっと、隣を見る余裕が生まれた。 何コイツ…… 自分の信号無視の所為であれだけ事故や混乱を起こした当の本人は、相変わらず涼しい顔でハンドルを握っていた。 高耶は呆れつつ、黙ってシートに身を沈めていたが、 「!」 先程の衝撃の為か、運転手席の小物を入れるケースが開いたままになっていた。そこで見た物に、高耶は一瞬躯を固まらせる事になる。 銃―――ッ! 高耶が固まったまま視線を離せずにいる前で、男は無表情でそれを掴み、自分のジーンズのウエストに押し込んだ。 ホンモノ? 多分そうだ、実際見た事は無いがそれでも高耶には、たった今男のものとなったのが本物の銃だと確信する。 車を走らせながらも、高耶は男の腰にある銃から目を離せずにいた。 暫くして、街外れの自動車整備工場らしき所で車を止めるまで、男は一言も口を開かなかった。それは高耶も同じだった。 随分走りやっとバラックの様な規模の小さい建物の前で、スカイブルーのムスタングが停車する。 高耶が中を覗き込むと、中で従業員らしき人物がボンネットの中に頭突っ込んでいるのが見えた。 修理の真っ最中らしい。その頭上げると、高耶達に気付たようだった。笑いながら近付いて来る。 「いえー、直江にあらにー」 ナオエ? 「ナオエ」と呼ばれた男は車を降りると、ガレージの中に入って行きスキンヘッドの整備工らしき男と何やら話している。 高耶は車中にいたので会話までは聞き取る事が出来ない。 どうやら見た所、この小さな整備工場はそのスキンヘッドの男の物らしかった。 もっとも、他に、従業員らしき人影は見当たらなかったが。 スキンヘッドが「ナオエ」に何枚かの札を渡してるのが見える。そして、「ナオエ」がそれを確認する様に数えている。 ナオエ、ナオエか……本当に千秋じゃなかったんだ…… 車の中で一人思いに耽っている高耶を、遠くからスキンヘッドはジロジロ眺めた。 「直江~、あのガキはぁ~?」 興味津々に車の中にいる高耶の方へ向かおうとする男を、直エは強引に奥に引っ張っていく。 「千秋の客だと………千秋は?」 「あれー、なぁー(那)ふぁ(覇)ーなはに行ったサ」 「何ッ」 「何ぬーがらブツ移すんでィ、言うとったよ」 「ちッ、あのバカ…」 思ってもみなかった拙い展開に、直エの 目が険しく細められた。無論そんなきな臭い話になっているなど、車の中の高耶が知る筈もない。 暑っち…… 走っている時はいいが、止まっているオープンカーの中にいると、暑さで頭がボンヤリしてくる。 「?」 気が付くと、先程のスキンヘッドの男がすぐ側まで来ていた。 「へへへ…………待っちょうてィー?」 車の横に立ちニヤついている男に、高耶は直エの姿が見えない事に疑問符を浮かべた。 「……あいつは?」 「あい?裏から出いじたんどぅ……」 そう言って、スキンヘッドは工場の裏の方を指差した。 「なッ?!」 「あい、話や決まとーたんあらにー?ガキ 付きやぐとどゥイロ、付けて買こうかしが……」 直江に売られたと分かった高耶は、悔しさ に唇を噛む。 「う~」 ちくしょう!ヤラれたッ! 直エに出し抜かれた事に気付いたが、少し遅かった様だ。 キレーな顔だわァやっさー、と言って身を乗り出してくるスキンヘッドを横目に、高耶は足元に転がっているスパナに気付いた。 「……ごめんなさい、って沖縄じゃ何て言うんだ?」 「ごめんなさいー?んー……」 そう言いながらも、ニヤけた顔をどんどん近付けて来る。 「わんがわっさた、さァー」 そう答えたスキンヘッドのその手が高耶の肩に掛かかり、顔が間近に迫る。 うわッ! 「わつ!わんがッ…………何とかぁッ!」 分からない言葉を適当に誤魔化しそう叫ぶ のと、高耶が振り下ろしたスパナが男の後頭部に決まったのは、ほぼ同時だった。 裏から出た直江は、車道に向かって工場の裏手に広がっている空き地を走っていた。 「ん?」 その先には、 「共犯、だろ?」 廃車に寄りかかった少年が、ニヤニヤ笑いながら待ち伏せていたのだった。 ガタガタ、軋んだ音をさせながら走る車は、かなり古そうだ。こんどは、フォードの小型トラックだ。 新車の頃は鮮やかな赤い色をしていたらしい、しかし今は褪せた褐色になっている。 「高いなぁ…………空」 助手席から窓に寄りかかり、空を見上げな がら少年が歌う様に言う。 「じき、雨になる…………」 高耶に聞かせたのか自分にか、直エはそう低く呟いた。 少し前に降った雨のせいで、道路にはあちこち水溜りが出来ている。足元を見ると、自分が映っているのが高耶の目に入った。 『先程、那覇市國際通りで起きた、信号無視のトラックを乗用車4台との衝突事故で―――現場から逃走したトラックは目撃者の話で赤いフォードと判明、警察では―――』 ラヂオから流れるニュウスは、既に車を降りてしまっている高耶達の耳に入る事は無かった。 『続いて天気予報です―――』 そしてニュウスは続いていった。 その間にも、繁華街の外れ向かっている。直エの後を高耶は黙って付いて歩く。 もぉ、コイツの車乗るの、ヤッ! 実はつい先程、また男は信号を無視して混乱を引き起こした。2度のクラッシュギリギリの体験にヘトヘトになった高耶がそう心の中で毒吐くと、まるでそれが聞こえたかの様に直エが振り返りギロッと睨む。 「えへへへ」 「……」 睨まれて、高耶は思わず、ヘラッ、と笑ってしまった。 何やってんだか俺…… そんな自分に呆れつつも、高耶は黙って直江の後に付いて行った。 「あッ」 「何ヨ」 「ナニナニ?」 那覇市内、観光客相手の土産物屋らしき店先で修学旅行中の中学生のグループの1 人が、2人連れの男が歩いているのを指差す。 「アレ、仰木?」 「そうみたい」 「何アイツ、班行動とかとんなくていいのかよ」 「イイんじゃない、あのコ、いつもああだし」 「でももうすぐ、集合時間だぜ」 「…………でもさ、あのオトコ、何…………?」 そんな会話が交わされている間、2人は商店街のアーケードを抜け、その外れにある老朽化が進んだビルに辿り着いた。 階段を上がり、ビル間の吹き抜けに面している廊下の奥まった部屋の前で立ち止まった。 「……」 ドアは開け放たれ、ガラスは割られていた。それを見た直江は、何か考え込んでいる。そんな男の様子に気付く事無く、高耶はさっさと部屋に入って行った。 「へー、ちょっとしたアジトだな」 部屋の中は、事務所の様な作りになっておりスチール製の棚にダンボールや、何かの部品が並んでんる。 床にも、ダンボールやらビデオやらが置いてあった。 「暑ッーい、こんなコトに住んる…………訳無いか…………」 暫く、物珍しげにキョロキョロしていた高耶が、直エに向き直る。 「で、千秋は何処なんだ?」 男は黙ったまま、答えない。 「なぁ」 直エは考え込む様に、辺りを伺っている。それから詰まらなそうにボソボソ吐き捨てた。 「…………そんな奴、始めっからいない、さっさと帰れ」 「は?」 男の言葉に、当然高耶はギョッとなり目を丸くしてしまう。そして、次の瞬間怒りに任せて喚き散らした。今まで散々焦らされた所為もあるのだろう。 「なッ?!何言ってんだよッ、オイッ!」 一体今までのトラブルの道のりは何だったと言うのか。 「おい、ってッ!」 興奮している高耶は、後ろから近付いてくる気配に気付かない。勿論、高耶に向けている直江の背中に、緊張が走ったのも。 「そうそう………折角だからゆっくりしていけよ……」 「!」 いきなりの乱入者の声に、高耶は驚いて振り返った。 「いい店じゃねーか、え?直江」 いい店じゃねーか、え?直江――― 背後の声は、突然だった。 不意を付かれた高耶の目に、入り口のドアに凭れ掛かりニヤニヤしながらこちらを伺っている3人の男の姿が飛び込んで来る。 「兵頭……」 「兵頭?」 苦々しく直エが呟くと、『ヒガ』らしき男の笑みが、一層深くなる。 頭にバンダナを巻き、現地人らしく浅黒く万年焼けした肌、切れ長の鋭い目付き。 「フフフ……リラックス、リラックス……」 兵頭が部屋に入って来ると、その後から見るからに『チンピラ』な派手なアロハを着た男、黒い髪を後ろに撫で付けたサングラスを掛けた男、が続いて入って来た。 「酒にビタミン剤……海賊ビデオ…か」 兵頭面白そうに、部屋をぐるっと見渡す。 「ククク……まあいい。何処から仕入れてこようが誰に売ろうが、ここは市場だからな……」 ゆっくりと言葉を続ける比嘉に対して、直江の表情は厳しい。 「商売の邪魔はしねぇ……した事ねーだろ?……あるか?……ククク」 おもむろに、兵頭は持っていた透明のビニール傘先を直江の咽元に突きつけた。 「!」 高耶は目を見開いた。 その傘先は染まり、赫い液体を滴らせていたのだ。 至近距離で2人は見詰め合っている。 それは、ほんの僅かの間だっかが高耶には酷く長く感じていた。 「なあ直江……沖縄は天国じゃねーか?今は組同士のいざこざもねぇし、ルールさえ守ってりゃ上手くシノゲるんだ、そいつを乱す奴俺が許さねぇ」 兵頭は直江の耳元で、囁く様に言った。 「どう許さねぇんだよ」 兵頭は見せ付ける様に傘先で赫い液体を床に擦り付けた。しかし、直江は顔色ひとつ変えない。 「ハッ、そうかそうか、お前色盲だったもんな」 色盲ッ?! 何度目かに驚く高耶の前で、直江は静かに目線を上げた。 「千秋をどうした?」 千秋―――ッ! やっぱり知り合いだったのか、と睨んでくる高耶の存在などこの場では何のスパイスにもなり得ない。 「逃げた」 「!」 今度はバッ、と高耶は、兵頭を振り返る。 「もっとも今頃は何処かでのたれ死んでるかもな、腹に二、三発は食らってたからなぁ」 な―――ッ?! 「……」 衝撃に思わず後ずさる高耶はだが、 「ッ」 カチッ、と頭の後でした金属音に、動きを凍り付かせた。 「……ガキにオモチャ使ったのか?」 低く唸る直江の声に、男の静かな怒りが伺える。 「ガキにはオモチャ、だろ?」 兵頭の言葉に、チンピラが、ヒヒヒ、と嫌な嗤いを漏らした。 「兵頭ッ!」 兵頭に向かって掴み掛かってきた直江に慌てたチンピラが、咄嗟に殴りかかってくる。 「いゃーやっ、するばァーい!」 だが直江はそのチンピラの胸倉を掴み上げると、 「ゆっ、ゆくしやさゆくしィー!」 そのまま、何階が下のエントランスに投げ落とした。 「あああーッ!」 この距離では、大怪我は免れないだろう。 既に投げ落とした男など頭にない直江は懐から銃を取り出し兵頭に狙いを付けるのと、それは同時だった。 「そこまでだ」 そには、後ろから首を押さえつけられこめかみに銃口を突きつけられている高耶がいた。 「……」 部屋の前の廊下、4人はそのまま動きを止める。直江は銃構えたまま動かない。 「直江は殺るなよ」 兵頭の指示を受けた男は、持っていた銃を持ち直し銃身で殴ろうと後頭部を狙って振り下ろした、その時、 ドン 2つ、鈍い音が高耶の聴覚を襲った。 「こッ、この野郎!」 高耶には、何が起こったのか直ぐには分からなかった。 今まで高耶を押え付けていた男の銃から、細い煙が出ている。高耶を羽交い絞めにしてる男と直江の銃が 同時に発射されたのだ。 「待て」 兵頭が命令する。その頬には、一筋の血が流れていた。 「トチ狂いやがって……」 サングラスの男は、忌々しそうに頬に流れる汗を拭った。 パシャ、と直江が持っていた銃が足元の水溜りに落下する。 銃……直江…… 直江の手から落ちた銃の横には、 直江…… 「直江ーッ!」 高耶の悲鳴が響き渡る。 直江自身がうつ伏せになって倒れていた――― 「また降ってきやがった」 たった今降り出した雨が、倒れている直江の背中を打ち付ける。 その背中の脇に屈み込んでいる高耶の肩に、兵頭のビニール傘が置かれた。 少年は、傘を持つ男を睨み上げる。そんな高耶に穏やかな目を向けると、兵頭は部下に命じる。 「連れていけ」 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 緑の中1人ぼんやり歩いて行き、何時の間にか上の方へ高耶は来ていた。 「わ……」 眼下の右に鬱蒼とした森、左にブルーグーリンの海。 「……」 地球の形成を見た気がする。 暫く黙って眺めている高耶の肩に、軽い刺激が走った。 「ッ」 ハッとなって振り返ると、 「……」 「高耶」 「……綾子……」 そこには不思議な女、綾子が立っていたのだった。 「……」 「……」 目を丸くしている高耶と、愉しそうな顔で笑う綾子は暫くの間見詰め合っていた。 万座毛、名護城址、そして今日は今帰仁城址。これを偶然と思う程高耶は無邪気ではない。 「どうかした?」 愉しそうに問い掛ける綾子に、高耶がゆっくり口を開き言った言葉は、 「……猫見た?」 「ッ」 一瞬驚いた顔になった綾子だが、次の瞬間クツクツ笑い出した。 「あははは……やっぱりあたしあんた好きだわ」 「俺も結構好きだな綾子が」 「嬉しいね」 ふふふ、と妖しく笑う女こそ、緑と太陽の対極にある気がした。 「うん、見たよ猫、可愛いね」 「うん」 「高耶みたい」 「俺?」 「そう……高耶は絶対犬、じゃなくって猫よね……可愛い仔猫ちゃん」 そう言って長く複雑にネイルアートしてある爪で、ゆっくり高耶の頬をなぞっていく。 「今日は何で?」 何気無い、だが直球の高耶の問いに、綾子は笑った。 「見に」 「……」 何を、とは訊かない高耶に、綾子の笑みが深まる。 「高耶」 「何?」 「今日の予定は?」 「……」 高耶は組織がヒットマンを送り込んだ事を知らない。ただ漠然と直江と千秋を追ってる、と思っているだけだ。 「ねえ」 こうしてあから様に訊いてくるのだ、2人を追っているのを高耶に隠す気はないのだろう。 「知らない」 「知らない?」 「知ってても教えてあげない」 そう言ってにっこり笑うと、綾子もつられて笑みが深まる。 「そっか……でも」 今日の綾子は、昨日とはイメージがかなり違った。ノースリーブの真っ白なワンピースは、足首の当たりまである長さで。生地はふんだんに繊細なレースが使われている。 「ふふふ……」 大きなサングラスはマダムの様で、そんな井出たちなのに清楚に見えない綾子が興味深い。 「そう、じゃあ」 と言いながら女は、高耶が見ている前でスカートを腿の上の方まで捲り上げた。 「え?」 他に誰も観光客の姿は見えないが、それでも何だろう、と思ってしまう行為だ。 「綾」 そして白く滑らかな腿には、不似合いな黒いベルトが巻き付けてある。 「……」 口径なんか、高耶には分からない。だが綾子の手の中に収まる小さな銃。 それを慣れた手付きで取り出した。 「あ」 パン 乾いた音 「……」 音が高耶の耳に届くまで、それは一瞬の早さだった。先には、少し離れた場所に立つ直江と千秋が立っている。 「ッ」 「!」 空気を切る音が、2人の脇を通り過ぎる。瞬時に構えた2人は、咄嗟に樹の陰に身を隠した。 直江はジーンズのウエストに捻じ込んであった銃を取り出す。千秋も同じ様に後腰の部分に隠してある銃を構えた。 「……」 樹の影からそっと伺うと、弾の飛んで来た方向には高耶が1人立っている。 「チッ」 気配はない。 それを確認すると、直江は銃を仕舞いながらゆっくりと高耶の方へ近付いてきた。 「何処だ」 「……」 分からない、そう意味を込めて首を横に振る。 実際綾子は高耶が銃声に振り返った時には既に、姿を消していた。 「おい直江」 千秋もやって来て、周りを見回す。 「もういねぇよ、とっくにな……遊んでやがる……」 あの距離で外すとはとても思えない。間違い無く、わざと外したのだ。 「舐められたもんだ」 チッ、と舌打ちすると、元来た階段を下りていってしまう。 「高耶……」 少し呆然としている高耶に、千秋は溜息を吐いた。 「綾子……」 「行こう」 「……ああ」 入り口まで降りると、そこにはまだ、あの大小の猫達がいた。3人は無言で、猫の脇を通り過ぎて行った。