まんぷく荘のにぎやかな夕餉 第1話 尊い時間と拭える傷
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ご覧いただきありがとうございます( ̄∇ ̄*) 「まんぷく荘のにぎやかな夕餉 第1話 尊い時間と拭える傷」 同人誌で展開するシリーズの第1話です。 大家さんが店子さんの家に晩ご飯を食べに来るまんぷく荘。 当番の今日、大家さんと楽しい夕餉を過ごす主人公。 ある日主人公は過去の失恋相手に遭遇し? ・文庫サイズ/28ページ 第0話が無料DLできますので、よろしければご覧くださいませ。 https://ee-na.booth.pm/items/3203576
▼おためし読み
(中略) 「お待たせしてしもうてごめんなさい」 「ううん、全然〜。こちらこそいつもありがとうねぇ〜」 炊きたてご飯が盛られたお茶碗とお箸を手に、円香さんは淑やかに部屋に上がり、すすすっと進んでダイニングの椅子に掛けた。テーブルを見渡して「まぁっ」と歓声を上げる。 「今日もとっても美味しそう! んん〜、良い香りだわぁ〜」 円香さんは心地好さそうに言って、鼻をひくつかせる。こんなに喜んでもらえるのなら、作った甲斐もあるというものだ。 味噌炒めは大皿に盛ってスプーンを添え、小鉢はそれぞれに整えた。 結麻は大学進学をきっかけに実家を出て、大学時代は寮で生活していた。 卒業と就職のタイミングでこのまんぷく荘に入ったのだが、「円香さんと一緒に夕餉システム」が分かっていたので、食器は実家の食器棚を参考にしつつ、ふたり暮らしを想定して揃えた。種類はそう多く無いが、今のところ過不足無く使えている。 結麻はビールとグラスを出し、円香さんの正面に掛けた。円香さんの飲み物はペットボトルのブレンド茶。これも円香さんの持ち込みだ。グラスはこちらで用意する。 「ほな、いただきましょか」 「は〜い。いただきまぁす!」 「いただきます」 ふたり揃って行儀良く手を合わせ、結麻はまずビールを喉に流し込む。部屋はクーラーで冷えているが、気温や気候問わずビールは美味しい。しゅわっと爽快だ。仕事終わりはこの一杯に限る。結麻は寒い冬でもビールで始める。 「はぁー、美味しいわぁ」 結麻が心地よさげに頬を緩めると、円香さんはおかしそうに「ふふっ」と微笑む。 「本当に結麻ちゃんは美味しそうにビールを飲むわねぇ〜」 「ほんまに美味しいんですもん。円香さんは飲めないんですよねぇ」 「そうなのよぉ〜。その分白米が美味しいから良いんだけどもぉ〜」 円香さんは下戸なのだ。アルコール度数が低いお酒でも、グラス半分ほどで酔っ払ってしまう。なので夜のお店は敷居が高いと思っている。 性同一性障害である円香さんが同じ境遇の人と出会うには、夜のお店、すなわちニューハーフのクラブなどが早いと思う。だがお酒の飲めない円香さんには扉を開く勇気が出なかった。 なので円香さんはインターネットを巡ってそういうコミュニティを探し、話や相談をしたりしている。住まいが近くの人とは直接会ったりもしている様だ。 円香さんは小鉢の蒸し茄子を口に運び、「んん〜」と目を閉じる。 「とろっとろで美味しいわぁ〜。お漬物とかでぱりっとしたお茄子も美味しいけど、やっぱりこれっくらい火が通ったのが嬉しいわねぇ〜」 続けて味噌炒めを取り分けて、茄子にたっぷり挽き肉をまとわせて口に入れる。 「こっちもとろとろ〜。今日はお茄子攻めねっ」 「秋茄子美味しいですからね。たっぷり食べてもらおうと思って。レシピが違ったらまた味もちゃうでしょ」 「うんうん。どっちもとろとろなんだけど、味わいが違うからぜんぜん飽きないのよねぇ〜。お茄子っていろんなお味を吸い込んじゃうわよねぇ〜」 蒸し茄子はレンチンしただけの簡単なものだ。だがそのシンプルさが茄子の良さを発揮させる。 円香さんの言う通り、お漬物の茄子も確かに美味しい。ぱりっとした皮にさくっとした身。それもまた茄子のひとつの美味しさだ。 だが一手間加えてとろっとろになった茄子は、また新たな美味しさを生み出す。甘さもぐんと引き出される。ねっとりとも言える食べ応えも舌に優しい。噛まなくてもとろけて行く様だ。 そこにかつお節とめんつゆの旨味が加わるのだから、美味しく無いはずが無い。結麻もたっぷりと蒸し茄子を堪能した。 続きはぜひ本でご覧くださいませ。よろしくお願いします!( ̄∇ ̄*)