怪奇幻想短編集 反魂抄
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怪奇幻想小説を集めた短編集です。 生と死の境界、現実と非現実のあわいを超えてゆくお話を集めました。 収録作品 「五月の旅路」 「夢でしか行けない街」 「一九九九年の人身御供」 「反魂抄」 (書き出し紹介) 「五月の旅路」 学校の裏庭にある池に、幽霊が出るという。五月の黄昏時にだけ、池のほとりに姿を見せる、と。そんな噂が校内でささやかれていた。真偽を確かめてみようと、とある放課後、私は裏庭に向かった。 「夢でしか行けない街」 夢でしか行けない街がある。 そこへはいつも、バスで行く。がたっと体が大きく揺れる感覚があって目を覚ますと――夢の中で目を覚ます、というのも変な話だが――私は、バスに乗っている。 「一九九九年の人身御供」 「今日あたり、ヒガンに行こうと思うの」 ヒガン、と彼女が口にすれば、それはまるで外国の甘いお菓子の名前のようだった。マカロンとか、そういう感じの。 とはいえ当時、マカロンはまだ日本に上陸していなかった。そして僕たちがその時、橋の上で欄干にもたれながら話していた文脈からすれば、それはやはり「彼岸」と表記されるべき単語だった。 「反魂抄」 あ、虹が……と彼女が頭上を指した。 昼下がり、雨がやんだ後の裏庭は、やわらかな光に満ちていた。 眩しさに目を細めながら見上げると、その儚い七色はすでに空の青さに溶けかかっている。間もなく、見えなくなった。 消えてしまいましたね、と傍らをかえりみれば、彼女の姿も消えかかっている。 森の奥から、うす青く透きとおった長い手が一本、伸びてきていた。その手に手を取られ、彼女は曳(ひ)かれてゆく。 わたしと彼女はしっかりと手を握り合っていたはずなのに、その手はいつのまにか、ほどけていた。わたしは慌てて引き止めようとして、だけど、伸ばしかけた手を、だらりと下ろす。 もともと、森の中の墓からやってきた彼女だ。いつかはそちらへ、帰ってゆくものだった。 ☆続きは本誌にてお楽しみいただけましたら幸いです。