以下本文より

「なあ、オヤジ」 改まった口調で話しかけてきた養い子に、ソルは調査中の手を止めた。 未だ正体の知れぬ慈悲無き啓示に、エルフェルトを奪われて二日。気の短いシンは、インコ（と呼ぶのはソルだけだが）ことドクターパラダイムの指示に従い、生体法紋や痕跡を探して回る地道な作業に焦れ始めている。話で気をまぎらわせたいのかも知れない。 「なんだ？メシならもう少し待て」 「メシじゃなくてさ。いや、腹は減ったけど」 「あ？」 「なあ。……カイって、オヤジ以外のトモダチ、いたのな」 流石にソルは驚いて、顔をあげた。実の父親に対して何を言い出すのやら。 「なんだ？」 「だってさ。カイってすげーハッポウビジンじゃん？」 「……政治家だからな」 「で。カイさまーさまーって連中は多いけど、みんなカイより格下じゃん？」 「……もとは部下だからな」 「だからさ、トモダチなんかいないと思ってた」 ひどい言い草だが、言葉に毒はなかった。 果たしてコイツが八方美人とか格下という熟語の意味を、正しく理解しているのかどうか。イマイチ不安ではある。それにカイは多忙で、のんびり私的な付き合いを優先できる身分ではない。どうしても周辺に侍るのは仕事で絡む相手ばかりで、そこを突くのは気の毒だ。