連作短編140字小説『アルマ』を中心に、No.251‐400の感傷、恋愛、青春、ホラー、コメディ、日常など多種多様なジャンルを153作収録しています。 【反省会】 「反省するまで戻りません」そう言って先生は職員室に帰ってしまった。「別に謝りに行かなくても良くない?」先生はノイローゼで学校を辞めることになった。同窓会で先生が自殺を図ったことを知る。それを聞いた同級生達が笑う『反省するまで戻りません』先生はまだ帰ってこなかった。 【病葉】 「病葉って知ってる?」と、入院していた彼女から聞かれたことがある。秋の落葉期を待たずに、病気によって夏に変色してしまう葉のことだ。彼女は病葉のような人だった。公園のベンチに座る。翠緑をした炭酸飲料の気泡が弾けて、どこへともなく消える様をただただ見ていた。夏だった。 【「嫌い」の席】 子どもの頃、一つ飛ばしずつ電車の席に人が座っていることに気付く。「なんで間を空けてるの?」と母に聞くと、「人と人との間には『嫌い』が潜んでいるのよ」と答えた。 今にして思えばあのとき、僕を挟んで座っていた母と父の間にはもう、『嫌い』が潜んでいたのかもしれない。 【記号言葉】 彼女に「」いいところを見せようと散歩√をーして地面を×。そしたら:で眼鏡を÷。彼女が@驚いて目を、にしたけど怪我はなかったから&した。もっと♯に走れたら良かったのに。.疲れた〜帰宅する。今日の晩ご飯は彼女特製の#ドビーフだ。おなかいっπ食べよう。いただき〼。 【心入れ替え装置】 人生で嫌なことがあったので、気分転換に心を入れ替える。胸部を開いて滅入った心を取り出し、ストックしてある「前向きで明るい心」と交換した。胸部を閉めて数分、たちまちと元気を取り戻して力が湧いてくる。よぉし、明日もがんばるぞ。………………なんて、できたらいいのになぁ。 【帰郷】 正論を撒き散らしながら、言葉の暴力で殴ってほしい。君の事を認めた上で、君の事を嫌いになりたい。「幸せじゃなくてもいい」と言える人は、最初から幸せな人だからだよ。憧れを捨てた東京には、君のような人が大勢いるのですね。去年を置き去りにして、また、今年が始まりました。 【エイミー】 明日で僕は誕生日を迎える。世界では今、二十歳になると強制的に夢をダウンロードされる時代だ。身の丈に合わない夢を見ないように。夢に破れて自殺しないように。機械がいくつかの要素から『正しい夢』を弾き出す。辞めた筈のピアノなのに、机を弾く癖が抜けない。「計算結果、あなたの夢は」 【トーエ】 美容師さんから「髪の毛にはね、記憶が宿っているの」と聞いた。だから失恋をしたら髪を切るそうだ。辛い記憶を忘れるために。思い出さなくてもいいように。美容師さんの長い髪が私の頬に触れる。少し熱く、多量に柔らかい。美容師さんが長い髪を揺らしながら「嘘だけどね」と、小さく笑った。 【せいめいのおわり】 「両親が離婚することは悲しいことじゃなかったのよ。でも、始業式で名前を呼ばれる順番が遅くなったの。名字が変わったからね。なんでだろう。それがすごく悲しかった」と彼女は笑いながら話していた。今にして思えば、僕の名字だけが彼女にあげられる最後のプレゼントだったのかもしれない。 【月が綺麗ですね】 「『月が綺麗ですね』って知ってる?」と、鏡に向かって指で広角を上げている彼女に質問する。「知らない。なにそれ?」「夏目漱石がI love youをそう和訳したんだって」「ふーん」「君ならどう和訳する?」「『作り笑いが下手になってしまった』かなぁ」と言って、彼女は鏡ごしにほほえんだ。 noteで1400作品の140字小説が無料で読めます! https://note.com/akisuke0825/n/nc471e35ad02b おまけ特典 ・購入者様限定140字小説1作