切株(あるいは、断頭台)
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――これで練習なさると良いでしょう。 奥方様は、『それ』を指差しながら告げると、わたしの反応など欠片も興味がないという態度で、踵を返して去って行きました。 じめじめした『個室』に残されたのは、わたしと、わたしが最後にお世話になる『それ』。 幾人もの血を吸ってきたであろう、『それ』は、『個室』の壁の灯りをうけて、きらりと鈍い光を放っていました。 まるで、わたしの首に振り下ろされる瞬間を、待ち望んでいるかのように。 【商品説明】 ・送付物は2枚目になります。 ・レジンで出来ているようです。 ・レジンに着色する形で、雰囲気を演出しています。 印刷ロット毎に、多少のばらつきが発生すます。 ・塗装はしていません。 ・表面にざらざらした加工が施されています。 未塗装でも映えます。ちょっと色を置くと、もっと映えます。 ・木材と金属のような外観ですが、レジンで出来ています。 ・見た目より、軽いので、びっくりする方が数多くいらっしゃいます。 ・金具は細くて折れやすいので、注意して扱ってください。 ・サポート材の痕は未処理です。 ・仮組は出来ますが、嵌合は緩いです。 ヤスリや接着剤での微調整をご提案いたします。 ・表面にベタつきがある場合、陽光で半日ほど天日干しにしてください。 こんな陰鬱な『器具』を、天日干し……? 【購入に際して、事前に確認いただきたいこと】 3Dプリント出力品は、薄さ、細さ、長さに応じて、パーツに反りが発生します。 ――木材や金属より繊細だ、ということはわかりました。 出荷時には問題なくとも輸送時の環境(温度状態)や時間経過とともに反り、変形が経時変化として発生することがあります。 出荷時に検品し、問題なことを確認して発送いたしておりますが、出荷後に変形したものまでは責任を負いかねます。 当ショップの商品は、3Dプリント出力品です。したがって、商品には必ず『個体差』が生じます。 メーカーの射出成型品のような品質をお望みの方には当ショップの製品はご満足いただけない可能性がございます。 ――貴族さま方の言葉は、平民のわたしには知るよしもありませんね。 ご主人様が、わたしたち領民のために商人とお付き合いがあるということだけは理解しました。 ――女の子を『いじめて』『よろこぶ』『悪癖』がなければ、素晴らしいご主人様なのですけれど。 ======とある少女の日記帳より抜粋====== 足に力が入りませんでした。 わたしはがっくりとその場に座りこみ、ふらつく身体を手をついて支えます。 今になって、激しい動機と震えとが、わたしに襲いかかってきたのです。 床についた手はがくがくと震えています。 息が全くできず、肩を大きく振るわせながら、突きつけられた現実を受け入れようと必死になっていました。 地上で溺れるという、得難い体験をしながら、わたしは館の真の主人が誰であるかを理解し始めていました。 お館様の奥方様。 お貴族様であらせられた前奥方様がご病気だとかでお隠れになった数日後。 平民の出ながらお館様に見初められ、今の立場につかれたと記憶しています。 顔立ちの整った方でしたので、前奥方様を亡き者にしてその地位についた簒奪者、という噂は眉唾だと思っていたのですが……。 あの方のわたしを見つめる瞳。 一切の感情を含まぬ、冷徹な眼差し。 作りモノのように美しい小顔に嵌め込まれた、感情を推し量れない窪み。 少なくとも火のないところに煙は立たぬ、という言葉の重みを深く考えてみるべきでした。 ふと、思ってしまいまし。 あれは本当に人間なのだろうか、と。 日々の些細な態度から、ヒトが嫌いなのだろうとおぼろげに感じてはいました。 でも、それはあくまでの人付き合いの範疇の事であって、それ以上の意味など考えたことはありませんでした。 でも、今は。 奥方様を、ヒトと同じ姿をしているという以外に、同種の生き物であると思いたくありません。 わたしをバッサリと切り捨て、あまつさえ、練習しておくように、などと言い放ってしまえる方と、同じ人間であるなどとは、決して……。 わたしは、奥方様とその連れが置いていった、『それ』を見やりました。 幾人ものちを吸ってきたであろう、古い切株と、鉄の斧を。 その刃先は、牢の灯りに呼応するかのように、ゆらゆらと鈍く輝いています。 斧が笑っているように見えました。 その影の中に、奥方様の冷たい悪意が垣間見えた気がして、わたしは自分の肩を強く抱きしめました。 でも、どれだけ強く抱きしめようとも、わたしは身体の芯からくる震えを抑えることができませんでした。