タコ焼き一つで世界征服 原作：井上軟太郎 「ふむふむ…地球か。なかなか興味深い星だな。」 宇宙船の窓から地球を眺める少年ベル。彼は、遥か遠くの太陽系銀河から地球へと流れ着いた放浪宇宙人だ。彼の背中には、宇宙海賊団の父親から受け継いだ、重厚な宇宙船の設計図が詰め込まれたバックパックが。それは、彼に課せられた使命、地球征服の証だった。 「でも…どうやって征服すればいいんだ？」 ベルは困惑していた。地球の文化、歴史、言語…何も知らない。どうすれば…この星を征服できるのか見当もつかない。 「とりあえず…情報収集だな。」 ベルは宇宙船を地球の大都市へと降ろし、街へと繰り出した。すると、美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。 「な、なんだ…この匂いは…？！」 ベルは、たこ焼き屋台の熱気を帯びた光景に足を止めた。金色の球体が、熱気を帯びた鉄板の上で踊っている。 「これが…地球の食べ物か…」 ベルは、おそるおそるたこ焼きを口にした。その瞬間、彼の口から歓声が漏れた。 「うっまー！ 」 それは、ベルが今まで味わったことのない、全く新しい味だった。カリッとした食感、熱々のソース、そして、タコとネギの絶妙なハーモニー。一口食べたら、止まらない。 「これは…地球征服よりも、もっと重要なものだ！」 ベルは、すっかりタコ焼きに夢中になってしまった。彼は、地球征服の計画を忘れて、毎日タコ焼き屋に通い詰めるようになった。 「おい、ベル！ 地球征服はどうしたんだ！？」 宇宙海賊団の父親からの通信。ベルは、慌てて答える。 「父上！ 地球征服？ ああ、あのね…地球には、タコ焼きっていう、めちゃくちゃ美味しい食べ物があるんだ！ それに夢中になって、征服のことなんてすっかり忘れてたよ！」 「なっ！？」 父親は呆然とする。 「たこ焼き？ な、何だ…それは？」 「父上も、ぜひ食べてみて！ 本当に美味しいから！」 ベルは、父親にタコ焼きを勧めた。そして、父親は、地球に降り立ち、タコ焼きを食べた。 「ぉふ…う、うっま！」 父親もまた、タコ焼きの美味しさに魅了されてしまった。そして、二人の宇宙海賊は、地球征服の計画を放棄し、地球でタコ焼き屋を開くことを決意した。 「地球征服なんて、どうでもいい。俺たちは、地球の人々に、このタコ焼きの美味しさ、そして…喜びを伝えたいんだ！」 ベルと父親は、地球で最高のタコ焼き屋を目指し、日々奮闘する。そして、彼らのタコ焼きは、地球の人々に愛され、世界中に広がり、やがて、地球はタコ焼きで満たされるようになった。 「地球征服は失敗だったけど…地球の人々に、美味しいタコ焼きを届けられたから、それでいいんだ！」 ベルは、笑顔でタコ焼きを頬張っていた。彼の背中には、宇宙船の設計図ではなく、タコ焼きのレシピが詰まったバックパックが。 こうして、地球は、タコ焼き一つで征服されたのであった。 めでたし…めでたし