インナーチャイルド
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大人になった記憶はない。 子どもだった記憶はあるのに。 「まるよりもっと、まあるになりたい」と言い出す妹(まあるになある)、甘いソーダ水を飲んだことのない幼馴染(葉月、金魚鉢いっぱいのソーダ水を)、出来が良くて運が悪いあたしの日々(ガーデン-バラエティ)。 やわらかくて冷たくて、爽やかでぞっとする。 いつかの「あの頃」を綴った三編を収録。 A6サイズ/42p/2026.6発行
◆こんなひとに
☑きれいなものを見てぞっとすることがある ☑子どもの頃を思うとモヤモヤする ☑やわらかい気持ちを思い出したい ☑短くても濃い小説が好き
◆まあるになある
「わたしはね。まあるになりたいの」 かき氷のシロップを選んでいたら、妹がつぶやいた。 妹はとっくにかき氷を食べ終わっていて、いまだ真っ白なかき氷の前でシロップを選ぶ俺を眺めている、ようだった。 俺の目線はブルーハワイの青とイチゴの赤の間を行ったり来たり、妹なんて見ていない。青と赤、交互に目線を走らせる途中に妹の残像があった気がしただけだ。 →試し読み https://note.com/pentopan/n/nf4d38ab7463a?sub_rt=share_sb
◆葉月、金魚鉢いっぱいのソーダ水を
ランドセルを玄関に放り投げて、ミコの家に向かった。 ミコと別れてからまだ十分も経っていないはずなのに、ミコの汗はすっかり引いていた。 「うわ、葉月。汗やばいね」 「しょうがないじゃん。急いで来たんだもん」 ごしごしとハンカチで汗をぬぐった。 二階にあるミコの部屋に向かうと、階段を上ったとたん、むわっとした熱気に包まれる。 せっかくぬぐった汗がまた噴き出た。なんだよもう。これだから夏は嫌なんだよ。 夏生まれでも、夏は暑い。そりゃそうだ。人間だもの。 ミコの部屋は、キンキンに冷えていた。汗が一気に冷えて、気分爽快。
◆ガーデン‐バラエティ
風が強く晴れた日は、家より先にお隣さんの家の庭をのぞく。 車を何台も停められるくらいに広い、砂利が敷かれた庭。 その一角に、わが家のタオルが二枚とあたしのTシャツが落ちていた。やっぱりね。予想通り。 お隣さんの家の門はずいぶん前に壊れてしまっていて、ずっと開いたままだ。 あたしが急に止まったものだから、ランドセルに付けた給食袋がぶらぶらと揺れる。 そのたびに、給食袋が門を出たり入ったり。 インターホンを鳴らしたけど誰も出てこない。 あたしは「おじゃまします」とつぶやいて、素早くわが家の洗濯物を拾いに入った。 タオルは乾いた砂利の上に、あたしのTシャツは抜かれた雑草の上に落ちていた。持ち上げるとあたしのTシャツだけ泥がついている。


