sound note 室井康雄 1章 少年時代編
- ¥ 1,500
アニメ私塾の室井康雄さんオーディオブック「SOUND NOTE」。 1章 少年時代編 52分 2章 アニメーター編 1時間7分 3章 アニメ私塾 ビジネスモデル構築編 41分 4章 サロン運営編 38分 SOUND NOTE アニメ私塾 室井康雄 オーディオブック 第1章 少年時代編 52分 レビュー 文=山井淳生 第1章 少年時代編 「どのくらいの時から、絵が好きでしたか?」 間口が広い!これが第一の感想だった。 あの中武哲也が、あの室井康雄にインタビューをしている。全四章に分けてあるものの、総尺3時間超の大長編である。どんなマニアックな話が展開されるのだろうと、すこし緊張しつつ再生ボタンを押したが、その予想はいい意味で裏切られた。 マニアックなアニメの知識なんていらない。室井のことも、中武のことも知らなくても楽しめてしまうインタビューだったのだ。 こういうと、コアなアニメファンは退屈してしまうのではないかと、案ずる人もいるかもしれない。しかしこれは、誰が聞いても新しい発見があるような、とんでもないオーディオブックなのである。 ここで、この先を読むための前情報として、オーディオブックに登場する室井と中武のプロフィールを紹介したい。また、この文を書いてるお前は誰だよというツッコミも聞こえてきそうであるし、おふたりに続いて、僭越ながら筆者のプロフィールも挟ませていただく。 室井康雄(むろい やすお) アニメーター 1981年福島県生まれ。中央大学を卒業後、スタジオジブリに入社。退社後、『NARUTO』『電脳コイル』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズなどの原画を担当。その後、絵コンテや演出も手がける。現在は自ら開設した「アニメ私塾」で塾生の指導にあたりながら、YouTube、Twitterなどでその技術を公開。 Twitter:@animesijyuku 中武哲也 (ナカタケ テツヤ) WITSTUDIO 取締役・プロデューサー「進撃の巨人」「甲鉄城のカバネリ」等を制作 山井淳生 (ヤマイ アツキ) 大学生、制作アシスタント、アニメーター Twitter @yamai_tw さて、引き続いて本編の紹介である。内容にすこし触れるならば、開始15秒ほどで、中武によって、室井の半生がものすごくざっくりと説明される。それに続いて、今度は室井本人から、ざっくりとした自己紹介がある。この自己紹介がなんとぴったり1分半。合計だいたい2分で、室井康雄にまつわる前情報がカバーされてしまった。 それに続いて「第1章 少年時代編」が始まるが、中武の最初の質問が、「どのくらいの時から、絵が好きでしたか?」である。この質問が肝だと思う。絵の上手い人って、いつから絵が好きなんだろうか。これは、コアなファンほど聞き漏らし、アニメを知らない人ほど率直に聞いてみたい質問ではなかろうか。ああ、この間口の広さでインタビューが進むのかと、ふっと安心した瞬間でもあった。 ここから、室井の小・中学生時代のエピソードが怒涛のように紹介される。絵画コンクールの歴代入賞作品の癖を真似て、実力より下手に描き、最優秀賞を取った話。『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』に感化され、文化祭の演劇の台本を書き直した話……。中武の弁を借りるならば、「小学校の頃から室井康雄がはじまって」いる。ぜひ本編で聴いて、確認してほしい。 また、中学高校時代に『アニメージュ』といった媒体を通してアニメクリエイターの思想に触れた室井が、「こうなるのは無理だろう」とは思いつつも、アニメ業界を漠然と意識し続けていたことは興味深い。 大学進学時に福島県から上京した室井は、早稲田大学のアニメーション研究会に入会する。学生ながらにアニメを作れる環境に身を置くため、上京は大学選びの絶対条件だったそうだが、ここで室井は、自分の周りからアニメ業界に進む導線を見ることになる。雑誌越しではない形でアニメ関係者を知ることで、アニメを仕事にするビジョンが、リアリティを持って目の前に現れたのだ。 室井はサークルで自主制作アニメを作り続け、大学三年次に「ハイクオリティ」を目指して制作した『コアジサシ飛行倶楽部』が東京国際アニメフェアで入賞を果たす。アニメ業界への道を着実に歩んでゆくのだ。 また、同作を作り上げたふたりの仲間のうち、ひとりが「冨安くん」だというのだ! 現在放送中のテレビアニメ『ポケットモンスター』で総監督を務める冨安大貴である。 こういった、希少価値の高い情報を知れることも、この手のインタビューの醍醐味だろう。そんなの知らなかったよ!というところを知る、密かな快感である。ベーシックに生い立ちをなぞるインタビュー構成でありながら、そこもカバーされているのがこのオーディオブックなのだ。 室井は、東京国際アニメフェアでの受賞歴を隠して、スタジオジブリに動画マンとして入社する。なぜそのキャリアを隠したのかは、本編にてぜひ確認してほしいが、入社ののちに受けた「線の上線修正」というパワーワードも見逃せない。本人もとんちのようだというこの言葉だが、トレースの線の質の違いを修正されるという、まさしく職人芸だ。 こういった技術的な話題や、スタジオジブリでの経験談は、続く「第2章 アニメーター編」でさらに紹介される。このオーディオブックは各章ごと別売りであるから、例えば、アニメーターとしての室井についてだけよく知りたい人は、第2章だけ買う、というのもアリなのである。 とはいえ、この4本のオーディオブックが、一気に収録された一連のインタビューであることを踏まえると、全章揃えて拝聴していただくのがオススメである点はご留意いただきたい。 また、このインタビューが「オーディオブック」であることの特異性についてだが、筆者が中武からこの記事の執筆を依頼されたとき、おススメの視聴方法として、下記の三点を紹介された。 1. 携帯等の気軽に音楽を楽しめるハードに入れて頂く 2. 作業中、移動中のお供として楽しんで頂く 3. 集中して聞かない、空いた時間で何度もお聞き頂く おススメされた通り、筆者も作業中や移動中にラジオ感覚で拝聴したが、確かにこれはいい。文字に起こされたインタビューを読むよりも気軽に楽しめるし、それでいてこちらの気持ちが静かに鼓舞されるようでもある。 ぜひ、上記の三点を意識して、何度でも楽しんでもらいたい。 室井は上京前、アニメに類する仕事をする人が身近にいなかったことで、それで食べていく想像がつかなかったと想起している。今はインターネット全盛の時代であるから、かつてより断然、仕事としてのアニメを想像しやすい環境にあるだろう。今、そんな環境下で、アニメクリエイターの生の声を届ける新媒体「オーディオブック」が配信される。 これは、SNSでの発信や、文字媒体でのインタビューよりもはるかに明瞭に、アニメクリエイターを身近に感じる手段となり得るのではないだろうか。 「インタビューマニア」を自任する室井は、人生の節々において、先人たちの発言を参考に、行動を選択していることが、本編を聴くとよくわかる。このオーディオブックもまた、読者にとって、ひとつの指針になること間違いなしである。 引き続いて第2章のレビューも公開される。そちらもご一読いただけると幸いだ。