食洗機の動き出す、くぐもった水音に蜜柑の皮からも汁が飛ぶ。
「春姉、品川出たってよ」
シンクの縁に腰を預けて母はスマホをいじっていた。
「何分前の話」
「12:04」
現在時刻は一時前、仁波はのろのろこたつに埋まった気怠い身体を引き出した。芯の引っ込んだシャーペンで無駄に木目を突き、剥ききった蜜柑を房も割らずに放り込む。科目もごっちゃに散らかっている冬休みの宿題はまだ半分以上が残っていた。
海の幸に恵まれた磯の近くに住む仁波と、東京の大学へ通う春姉、親戚の中でも近しいふたりはそれぞれ密かに息を吐く。
織田作之助青春賞選考通過作。