【完売】那楚小説本 / 泡沫は、ユートピア
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[ 那楚小説本 ] 短編集 / 新書174p / アングラパロ/ファンタジーBL / 再録5本+書き下ろし6本/ nona (@nonana0017 )さんによる描き下ろしイラスト2枚 - 小口染めの特性上、ゆるやかに波打つ箇所がある場合がございますので、読み終わったら本棚にぎゅっとして下さい。また色移りにもご注意下さい。 * モブたくさん出ます ** 捏造幻覚自己解釈 *** 暴力的、反社会的表現、死ネタあり。大人向け。 Sample (多め) https://www.rain2am.com/post/newbook_utopia_sample
sample(1) / p8- [ 夜雨 ]
「十分でイかせたら、お金倍にして」 普通の部屋、普通のベッドの上だった。裸で、でも下着はつけていた。客の男も同様で、その下着に手をかけて、那貴は言った。冷たい指先が男の肌に触れた。 その唐突な提案に、客の男は一度首を捻ってから、低い声でぼやいた。 「こっちの楽しみが短くなるのに?」 那貴の口から、ああ、と笑みを含んだ声が出た。そして、ついて出たその男のぼやきを一気に畳み掛ける。指先は上質なコットンに触れられたまま、那貴は首を傾げた。 「じゃあ、五分にしてあげましょうか」 やろうよ。ゲームじゃん、ただの。ねえ、あなたと僕、どっちが勝つかな。 そう言えば、大概の人間が乗ってくる。一目見て、なんとなくわかる。その人間の面白さとか、そう言うものは。昔から賭け事には滅法強く、退屈なセックスをしそうな男を相手にする時によく使う手であった。毎日毎日同じことを繰り返しているだけだから、そこに面白さも糞もないわけだが、それでもこうして誰かの体を操って金が増えるのは楽しかった。実に、ゲームのようであった。しかし実際のところ、これは賭けでもゲームでも何でもなく、客側の我慢なんてあったものではない。口でも指でも手でも、そこに至らせるための過程において、時間は殆ど必要ないのだ。那貴には絶対的な自信があった。結局この日も目論見通りに事が進んだ。口の中で果てたそれを残したまま、毎度あり、と舌を出して見せると、 「上手いな、お前」 そう言って、客は紅潮した顔を悔しそうに歪ませ、長いため息を吐いた。まあ、当たり前だろ、これまで何百本相手にしてきたと思ってる。傍にあったティッシュペーパーにそれを包んでくずかごに投げ捨て、無論そんな事を思ってもいないような顔をして、朗らかに微笑んだ。今日、なんだか俺、調子いいみたいだね。ごめんね。そしてその男の首筋に唇をつけた。 「大丈夫、時間はまだあるから、終わりまでいっぱい遊びましょう」 これで、また来る。 客が女であれば優しい恋人のように接する。たまに強引にしたらかなりの確率で常連になる。 このゲームは金になる。ただでさえ長年やっているお陰で単価が高くなっている。その倍となると良い額である。だいたい、一瞬渋りはするにせよ、それでも問題なく金を出せる客ばかりだった。普通ならこちらが赴いても良いところを、わざわざやってくるのにはそれなりに理由があるのであった。 このゲームで稼いだ金は、まず背の高い瓶に入れた。それを更にプリングルスの空いた筒に入れ、赤い絨毯をめくり、床下に隠した。残りは集金に回ってくる者に渡す。いつも四割取られる。差し引かれた取り分を、またそこにしまう。透明のそれが札で満ちたら銀行に行く。キャッシュカードも盗まれるのを警戒して、一枚は手元に残し、あともう一枚は天井裏に隠す。天井裏にはいくつかのダンボールが置かれていて、その中に漫画本が目一杯入っている箱がある。那貴はだいたいいつも全十五巻の格闘漫画のクライマックスのページにキャッシュカードを挟む。冴えなかった主人公がプロの格闘家デビューをする瞬間に自分の財産を挟むのは気分が良い。 「いつか海外で暮らしたいんだよね、俺」 大きな家を建てて、プールのある庭を作るんだ。夏はそこで一日過ごすの。飽きたらプールサイドに出来る日陰で昼寝したりして。ジャグジーとかつけたら冬は温泉みたいに使えるね。最高じゃない?家族なんて要らないから、そこを独り占めするの。だから稼げるうちに稼ぎたい。 那貴はベッドに片肘をつき、横になったまま、まるで大きな独り言を言うように楚水に話しかけていた。夜の十一時半、体はいつも気だるい。 このベッドで、今日は三人とセックスをした。明日は二人の予約が入っている。二人とも常連で、一人は午後の六時間を買った。それは女性で、セックスは勿論だが、二人でテレビを見たり何か食べたり喋ったりすることを含めた時間だった。その客は毎回那貴の六時間を買っていく。多いときには八時間程度買われるときもある。だらだらと家で過ごすデートのようなものをするだけなので大変ではないが、すごく好きなタイプの女性ではないし話が合うわけではないので、ある程度は疲れる。親の悪口ばかりを言っている。いい歳をした大人がと思いながら、そんなに鬱陶しかったら殺しちゃえば、なんて冗談を軽いノリで言いたくなるところ、それを我慢して、大変ですねと微笑む。偉いね、あなたは。辛いことがあっても頑張ってる。だから素敵なのかな。あなたは、なぜだか、一緒にいたら落ち着く。そんな風に言って肩にもたれて、寝たふりをする。すると彼女はとても喜ぶ。そんな流れを作れば、休めることは休める。面倒ではあるが、仕事なので、勿論毎回そつなくこなす。二人目は普通の予約で、こちらの方がいっそ楽だ。なんせ、やることをやるだけと言うごくシンプルなものだから。 那貴の言う夢物語に、楚水はまるで興味が無さそうな顔で、「どこの国?」と尋ねた。視線は今日の分の那貴の収入にあり、喋りながらも手元に誤りがないよう丁寧に数え、そこから四割を引く。この人はいつもそうだ。何も関心がなさそうな顔をしながら、しっかり聞いている。だから嫌いではない。別の人間が集金に来れば玄関先で済ませるものを、楚水に限っては室内まで通す。 金を数え、取り分をすでにまとめた彼の様子を眺めながら、那貴は起き上がった。 「言ったら今日の俺の取り分を八割にしてくれる?」 楚水は那貴を一瞥して微笑んだ。視線を元あった場所に戻し、「じゃあ、聞かない」と言って那貴の分をそのままテーブルに静かに置き、売り上げを鞄に収めた。 「あっそ」 ノリ悪っ。大げさに呟きながら、那貴はテーブルの上に置いてあった赤い小箱から煙草を取り出し、それを咥えて火を点け、カーテンを開けた。冷ややかな外気とともに入り込んだのは、路上で喧嘩をする酔っ払いの怒号で、それに向かって来るのであろうパトカーの音が遠くで響いた。 人が一服中にうるせえな。途端に苛つき、持っていた物を投げてやろうと思ったが、そのとき那貴が持っていたものと言えばマルボロ一本で、どう考えても二階のこの部屋からでは飛ばされるだけだった。バケツに水を汲んで上から頭を冷やせとか言ってかけてやるのも、一つの考えとして浮かんだものの、面倒くさいからやめた。慣れている。しかしこの街の煩さにはほとほとうんざりする。日常茶飯事であるとは言え、たまに本当に癇に障る。那貴は煙と共にため息を吐き、その様子を眺めた。一体何にキレているんだ、馬鹿が。どうせ肩がぶつかったとかそういう糞ほどどうでもいい理由だろ。那貴は窓辺に立ったまま、うな垂れた。向こう側に伸びた腕の先で、吸わないうちに灰と煙だけが伸びていく。その後、パトカーが到着した途端に片方は大人しくなった。僅かではあるが知性を持ち合わせているらしい。 ライターをカチリと鳴らす音がして、那貴は目をそちらに向けた。楚水の口元で、煙草の先が赤く光る。間接照明だけにしているこの部屋は、熱いところがよく目立つ。 「灰皿いる?」 那貴は自分が持っていたそれに吸い殻を押し付け、楚水に渡した。ありがとうと受け取って中央のテーブルに置いた。楚水はソファに腰掛け、背伸びをしてから体重をそこに埋めた。 「楚水さん、今日の回収は俺で終わりですか」 「ああ」 頷いて煙を吐く。那貴は続けた。 「腹減らないですか? まだ夕飯食とってないんで、何か食わせて下さいよ。明日からもあんたらの四割の為に真面目に働くんで」 那貴が皮肉を込めて言った言葉について、何ら気にする様子はなく、楚水は言った。 「今日だけだぞ」 そう言っては、これまで何度も那貴を食事に連れて行っている。やっぱり優しいな、ありがとうございます、と調子よく言いながら、結局連れて行ってくれるならそんなふうに言わなければ良いのに、と那貴は思っている。 集金に来る人物が楚水になってから、仕事終わりが楽しみになった。この人のことを那貴は気に入っている。単に、楽だからいう理由である。食事を何度もしているが、二人はほとんど会話をしない。何かに大きく盛り上がったりすることもない。それでも気性が近いのか、やはり楽なのである。 アパートの階段を降りてすぐの道にある最初の信号を曲がって五分歩いた所にある台湾料理の店は、かなり深夜までやっていて、既に三回行っており、楚水は三回とも同じメニューを頼んだ。多分また同じだろうと予測したら、やはりそうだった。魯肉飯、ご飯は多め。そんなに美味しいならと思い今日は那貴も同じものを頼んだ。 「この肉、花みたいな香りがする。甘塩っぱくて美味いね」 言いながら楚水を見ると、ポケットから胡椒を取り出したところだった。ごそごそと何を探しているのだろうとは思っていた。小さな小瓶は奥の方に入り込んでいたらしい。気に入っている割にいつも胡椒をどさどさと振りかけて食べる。二人で食事をするようになったばかりの頃、それを見ても何も思わなかった那貴だったが、とうとう眉を潜めた。 「またかけてる。そんなにかけたら、味が変わるんじゃないですか。せっかく美味しいのに」 「俺は胡椒をかけないと食事が出来ない」 楚水は那貴の言葉を全く気にせずにその事実だけを述べた。何にでもマヨネーズをかけて食べる人みたいなやつか。考えながら、那貴は言った。 「砂食ってるみたい。あんたは早死にするよ、きっと」 「何も食べない方が死ぬだろ」 厳密に言うと、楚水のそれは主菜や副菜のどれかに限る話で、白米には何もかけなくても食べられる。しかし、いつしか白米しかなければ白米にもかけるようになった。胡椒は必ず持ち歩いていた。楚水は滅多に自炊をしない。 楚水のその言葉に、まあ確かに、と、納得がいったような、そうでないような微妙な顔をして、那貴は唇を尖らせた。口の中にゆで卵を入れると、魯肉飯の汁を目一杯吸った味がした。早々と食べ終えた楚水は手元にあった水を飲んでいた。店内ではどこの国の言葉か分からないラジオがずっと流れている。この人の夕食は殆ど塩っぱいのかなと考えていたら、楚水がコップを置いて言った。 「俺はプールとかそう言うのは興味がないけれど、暮らすなら飯が美味い国がいいな」 先ほど那貴が語った話は、暇つぶしの、夢物語とも言えないただの妄想であった。どの国が良いかなんて一つも考えていない。第一、詳しくない。ずっとここにいるから。 普通に食えないくせに、と言おうとしたがやめた。楚水が財布を出そうとするところだったから。店主は奥の方で一服していて、この国籍が違う感じがたまらないんだよなと那貴は思った。 店から出ると冷たい外気が頬を刺すと共に、また別のパトカーの音が耳に響いた。楚水は着ていたコートの襟元を締めて、呟いた。 「あと、夜が静かなところがいい」 「うん、それはすごく分かる」 楚水は微笑んで、「借金があるのかと思ってた」と言った。那貴はじっと楚水を見てから、視線を反らし、「そんなのするわけないだろ、俺が」と無機質な声で答え,鼻で笑った。 ここは夜でも明るい。ギラギラとしたネオンが並び、人がうごめく。夜空に月はあっても星なんて滅多に浮かばない。朝は臭うことも多々ある。 四割抜かれるとはいえ、取り分は高い。熱心な固定客もついている。ざわざわと常にうるさいこの街だが、金持ちが忍んで遊ぶにはちょうど良い程度の治安も持ち合わせている。正真正銘の安宿もあれば、それに似せている清潔で高価な店もある。回遊魚のように店を回りながら、でも基本的には住居としている場所で客をとる。何かあればすぐにでもいなくなりたいのに、ここの生活に骨が慣れてしまっていて、行きたい場所も特になかった。十七の頃からずっと同じ仕事で生きている。単価がかなり上がった今、いなくなるのも損な気がして、それなら働けなくなるまでここにいようかとも思ってしまう。でも働けなくなるときなんてくるのだろうか。自分の需要がなくなるのはいつだろうか。特殊な人間から見たら、実に多種多様、ありとあらゆる状態が、全て性の対象になりうる。現に、妊婦や授乳中の女のみが働く宿も近くにある。那貴が自宅にしている部屋も、もともとは金持ち向けに作られた『生活感のあるアパート』と言うセットであった。 「悪かった。夢があったんだな」 那貴は楚水を見た。相変わらず、好青年のような顔をしている。いつもこうして、穏やかに話すが、感情がおもてに出ない。そもそも感情なんて持ち合わせていないのかもしれない。一定の温度を保ってそこに存在する。けれど口角を思い切り下げていない限り、いつも微笑んでいるように見える。たまににっこり笑うと、目が細くなって、優しい顔になる。 「でも、叶えたいなら何かしらの経営側に回るべきじゃないか。上に掛けあおうか」 「うん、そうだね。考えとく。良い助言、どーも」 じゃあね、ごちそうさま。駐車場へと行くその背中に声をかけると、楚水はこちらをちらりと振り向いて小さく手を振った。那貴はビールを買って帰ろうとコンビニエンスストアに足を伸ばした。なんとなく、まだ眠りたい気持ちではないのだった。
訂正箇所
以下、修正箇所です。地味な間違いをいくつもしてしまったNG集です。もう一生パーフェクト校正できない……懺悔。 P70-71 今日も変わらずに賑ずに賑やかだ→今日も変わらずに賑やかだ P71 体制→体勢 P81 上手く行った。。→ダブル句点…‼︎ P110 英断だと思った。。英断だと思った。→ダブル句点again…!!!そしてしつこく二回続いちゃってる英断! P112 どうした喜ぶ→どうしたら喜ぶ P128-129 (画面ずれてる) あと、英字が半角のまま横向いちゃっているところが二箇所ありました。探してね!泣 訂正してお詫び申し上げます。 しかも再販分も同じデータで作ってもらってしまっている為、修正箇所全く同じと言う…反省。









