橋本治「再読」ノート【第三版】
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2019年に惜しくも世を去った小説家、橋本治の中期から後期の評論的エッセイを軸に読み解き、彼の「思想」に迫る試論です。「再読」の対象としたのは『浮上せよと活字は言う』、『江戸にフランス革命を!』、『ぼくたちの近代史』、『宗教なんて怖くない!』、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』、『小林秀雄の恵み』など。 【第三版より表紙の紙が少しコシのあるものに変わりました】
はじめに
二〇一九年に逝去した作家の橋本治は共著も含めると二〇〇を超える著書を残した。だがその多くは現在、絶版あるいは入手困難である。没後、一部に復刊・再刊の動きもあるとはいえ、その膨大な著作の全体像を見渡すことは、書店に並ぶ本からだけでは不可能だ。 この文章はそうした橋本の旧著を再読し、その思想をあらためて捉え直そうとした記録である。橋本は古今東西の多くの古典(『古事記』や『源氏物語』から『ハムレット』まで)に対して現代語訳や大胆な翻案を行ったが、橋本自身の著作もいまや「古典」と呼ばれるべき風格を備えている。再読、三読に耐えうるだけでなく、読み返すたびに今日的な意味を投げかけてくれる。 私自身が橋本治の読者になったのは一九八〇年代初め、十代の終わりのことだ。かつてリアルタイムで読んだ本のなかには、充分に理解が及ばなかったものもある。これから再読する本のなかには、十年どころか数十年ぶりに読むものもあるが、そのような旧著からも多くのことが引き出せるはずだ。なぜなら橋本治が終生一貫して主張し続けたことの多くが、日本の社会ではまだ少しも実現していないからだ。 したがってこの再読ノートは回顧的なものではない。むしろ未来を、つまり「これから何をしたらよいか」を志向するものである。
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