ブロック宇宙管理統括事務次官 鬼海倫太郎
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人類が「ブロック宇宙理論」を完全に実証した時、時間は流れるものではなく、過去・現在・未来がすでに完成した一つの構造体として存在していることが明らかになった。 この巨大な時間構造を管理するため、各国家の枠を超えた官僚機構――ブロック宇宙管理庁が設立される。 鬼海倫太郎は、その管理庁において事実上の最高実務責任者である統括事務次官。 彼は感情を排し、運命を「変更不能な行政対象」として扱う冷静な官僚だった。 未来は読むもの、管理するもの、そして人類には「自由意志があると信じさせておくべきもの」――それが彼の信条である。 ある日、時間配列の定期監査中に、鬼海は自らの未来が記録から欠落しているという異常を知る。 死亡時刻も老衰も存在せず、彼の人生は“途中で終わらない”。 しかもその未来欠損は、いかなる修正権限をもってしても補完できなかった。 調査を進める中で、鬼海は管理庁が隠蔽してきた真実に近づいていく。 ブロック宇宙は完全な構造体ではなく、崩壊を防ぐために常に微細な調整を必要とする不安定な完成品であり、 その最終的な監視と均衡を担う存在として、鬼海自身が“設計された例外”であることが判明する。 一方、管理庁の外では、未来が固定されているという前提を否定する思想集団――**自由時間派(フラクチャー)**が活動を激化させていた。 彼らは鬼海の「未来が存在しない」という特異性を、人類が再び自由を取り戻すための鍵だと主張し、接触を試みてくる。 管理する者としての使命と、管理されない存在としての自分。 その矛盾に直面した鬼海は初めて、「決裁されていない未来」を自らの内に見る。 やがて彼は選択を迫られる。 自分を消し、時間を完全に固定し宇宙を安定させるか。 管理庁を崩壊させ、すべての未来を不確定へと解き放つか。 あるいは――どちらも選ばず、未来を未決裁のまま残すか。 鬼海倫太郎は、生涯で初めて承認印を押さない。 その瞬間、完成していたはずの宇宙は、ほんのわずかに揺らぎ始める。 それは人類史上初めて生まれた、「決められていない未来」の兆しだった。
