目があったとき
物販商品(pixivFACTORYから発送)¥ 3,200


マウスパッド - 丸型この商品はpixivFACTORYで作られた商品です。サンプル画像は完成イメージのため、実物と異なる場合があります。 目があったとき、見つめ合う その町には、不思議な言い伝えがあった。 「目があったとき、すぐに逸らしてはいけない」 古い人々はそう言った。 なぜなのかと尋ねても、誰も詳しくは語らない。 ただ、 「見つめ合えば、その人が隠しているものが見える」 そう答えるだけだった。 少女は、その言い伝えを信じていなかった。 人間の目を見たところで、心の中まで読めるはずがない。 悲しい人は笑うこともある。 嬉しい人が泣くこともある。 人の心は、そんなに簡単ではない。 だから少女は、誰かと目があっても、いつもすぐに逸らした。 ところがある夕暮れ。 古い図書館の窓際で、一人の青年と目があった。 青年は、古びた本を抱えていた。 二人の視線が重なる。 少女は、いつものように目を逸らそうとした。 けれど。 なぜか、できなかった。 青年も逸らさなかった。 ただ静かに、少女を見ている。 言葉はない。 時計の音だけが、二人の間を通り過ぎていく。 少女は不思議に思った。 この人は、何を語っているのだろう。 口は閉じている。 なのに、何かが聞こえる。 「ずっと探していた」 そんな言葉が、声にならずに胸へ届いた。 少女は目を細める。 すると今度は、自分の記憶が相手に伝わっていくような気がした。 誰にも話さなかった幼い日のこと。 何かになりたかったこと。 けれど、自分には無理だと思って諦めたこと。 それでも、心のどこかでまだ諦めきれていなかったこと。 青年の瞳の中に、自分の姿が映っている。 少女は気づいた。 この人もまた、自分と同じように何かを探している。 「あなたも?」 声に出すと、青年は初めて微笑んだ。 「うん」 たった一言。 それだけだった。 けれど、その一言よりも。 二人が見つめ合っていた時間のほうが、ずっと多くを語っていた。 青年は本を開いた。 そこには、一枚の古い紙が挟まっていた。 紙には、こう書かれていた。 『言葉は、伝えるためにある。 目は、隠せないものを語るためにある。』 少女は紙を読み、青年を見る。 また、目があった。 今度は二人とも笑った。 もう、逸らさなかった。 やがて町を出る日が来た。 青年は遠い場所へ行くという。 少女もまた、別の場所へ行く。 二人の道は、ここで分かれる。 それでも少女は、不思議と寂しくなかった。 最後にもう一度、青年と目があった。 見つめ合う。 言葉にすれば、きっと長い話になる。 ありがとう。 さようなら。 また会いたい。 忘れないで。 どうか元気で。 けれど、それらを全部語る必要はなかった。 二人の目は、もう知っていた。 だから少女は微笑んだ。 青年も微笑んだ。 そして二人は、それぞれの道へ歩き出した。 何年も経ったある日。 少女は旅先の小さな町で、一冊の古い本を見つけた。 表紙を開く。 そこには、あの日の図書館で見たものと同じ文章が書かれていた。 『目があったとき、人は一度だけ、言葉より正直になる。』 少女は笑った。 そして本を閉じた。 その瞬間、店の入口に誰かが立った。 顔を上げる。 視線が重なる。 見覚えのある瞳だった。 二人は何も言わない。 ただ、見つめ合った。 長い年月を越えて。 その目は、昔と同じ言葉を語っていた。 「見つけた」 今度は少女も、声に出さずに答えた。 「うん。見つけてくれたね」 そして二人は笑った。 言葉は、そのあとでよかった。
発送予定日
- マウスパッド - 丸型(丸型 - ポリエステル / ゴム)2026/11/13

