しのびのはなし
- 600 JPY
小さな佐助×3+獣耳が送るハートフル?ストーリー! Twitterちび助一家本です!(@chibisuke_bot)
〝しのびのはなし〟より抜粋
大きな怪我をしている様子のないぬこが代わりに泣いて、きつはそんなぬこの手をずっと握っていた。 それはまるで本当に兄弟のようで。 「ごめん、しくじった」 「あやまらなくていいよ」 泣きじゃくるぬこを無理やり手伝わせてトラバサミを二人で一斉に引っ張り、挟まっているきつの足を取り出した。 骨までは折れていないにしろ、歩ける状態ではないそれに小さな溜息をついた。 「あわててでてきたから〝ちどめ〟しかないけど、かえるまでがまんできる?」 「へいき」 意外と平気そうな顔のきつに内心安心しつつ、手当をしながら先ほどまで凄く焦っていた自分が急激に恥ずかしくなった。忍ならこんな感情を持ってはいけないのだろうけど、本当の兄弟が出来たような錯覚があまりにも心地よく感じてしまっている自分を否定出来なかった。 (…らしくない) けど、悪くない。なんて。きつの足に包帯を巻いてやりながらこっそり笑って、今だ泣いているぬこを慰めて泣き止ませてからきつを背負って山を降りた。 城へ帰るとそこはもう戦場のような荒れ具合で、帰るなり信玄と幸村に三人一緒に抱きしめられて三途の川が見えたとか見えないとか。 「こんな時間まで何をしていたのだ!」 「えーと…なにしてたの?」 そういえばきつの怪我とか、ぬこの泣き顔とかで聞いている余裕もなかった。 今更ながら何をしに山まで行っていたのだろうかと隣りで信玄に抱きしめられているきつに聞いた。 「やくそう、さがしてたの」 「? それならおれさまのへやにまだあるでしょ」 「ちがう、それじゃなくて」 「なつまけしないやくそう」 「ちびにぃがねっちゅうしょうでたおれたから」 きつとぬこが交互にそういうとほんの一握りの見たこともない薬草を手渡された。二人のことだから城の中が退屈になって山へ遊びに出掛けたんだとばかり思っていた。でもそうじゃなかった、手渡された薬草がその証だ。ヨレヨレになった薬草を握った手からじんわりと身体が熱くなるのを感じて、思わず幸村の肩に顔を埋めて小さく震えた。兄弟が居たらこんな感じなのだろうか。両親も兄弟も居たことがない自分にはこの感覚が何なのかよく分からない。でも、 「…だんな、おこらないであげてね」 「佐助…お主…」 幸村はそこまで言って言葉を止めた。その日だけ、幸村に抱きついたまま少しだけ、泣いた。