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つきのはな
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とある郭で出逢った見目美しい男、佐助に惹かれていく幸村。だが佐助には隠している顔があり…? ※親伊達要素があります※
〝つきのはな〟本文より抜粋
部屋の中に一歩踏み入れれば、廊下では感じられなかった上品な香が二人を包んだ。甘いのにしつこくはなく、それでいて頭の芯を蕩かすような濃厚な何とも言えない香りだ。女の香が苦手な幸村も、この香には不快感を覚えなかったのか、はたまた、目の前の珍物に興味を引かれたのか分からないが、政宗の心配を余所に部屋の中をきょろきょろと見渡している。 「見たことのない飾り物ばかりだな…」 「これは南蛮の飾りだろう…以前取引した時に見たことがある」 幸村がいくら武芸にしか興味がなかったとは言え、物の高いか安いかくらいの判断は出来る。部屋に並ぶ品々は、今までに見たことも触ったこともないような、高価なものばかりだと子供のようにその目を楽しませた。 「いらっしゃい」 二人して声のした方に向き直れば、少年とも青年ともとれる男が部屋の隅に設けられている窓に寄り添うように置かれている椅子に座ってこちらを楽しそうに眺めていた。灯りはついている筈なのに、やけに彼がたたずむその空間だけは一枚、闇を被せたような暗さがあり、そこに燦々と注がれる月明かりが白い肌を浮き上がらせていた。 「初めまして、でいいかな?」 華のような美しさとは、正にこのことを言うのだろう。細い線を連想させるしなやかな身体に、陶器のように透き通る肌、長い睫毛は女も負ける程で、薄い唇から零れる声は鈴のよう、切れ長の目に施された化粧はその美しさを引き立てるのに最適だった。何よりも惹かれたのは、夕日のように明るい橙色の髪。肩にかかる程までしかない髪だが、後ろに掻き上げられたそれは細い絹糸のように艶やかで短いことが勿体ないと思わせる程であった。 「……出迎えもなしとは、いいご身分だな」 部屋に足を踏み入れた時は確かに誰かが居る気配は感じられた。感じられたのだが、一向に姿を見つけることが出来なかった。それを隠すかのように政宗は無理やり不敵な笑みを浮かべて嫌みを吐き出した。だが、青年はそれを軽く流すかのように目を細めて笑んだ。笑んだはずなのに、睨まれたような錯覚に陥ったのは恐らく瞳が笑っていないからだろうと分かっているのにも関わらず、幸村は不思議に思った。 「生憎、ここは遊郭と言うにはあまりにも客が来ないからね」 出迎えの仕方なんて忘れてしまったよ、とリンと小さく鈴が鳴るかの如く、くすくすと笑いながら客の姿を確かめた彼は立ち上がりながら態とらしく呟いた。彼の後ろにあった小さな飾り窓からは、満月が顔を覗かせていた。 「特に俺様は人一倍暇なんだ、中々目にかけてくれる人が居なくてね」 「の、割にはいい生活してるんじゃねぇか?」 「それはウチの旦那様のお土産」 面白可笑しく語るその表情とは裏腹、瞳は全くと言っていいほどに色がなかった。 「に、しても…武田の若虎に、独眼竜とは…中々豪華な顔ぶれだね」 「Ha!…来たくて来た訳じゃねぇよ」 「知ってる。…旦那様の郭遊びのお話は俺様の所にも届いてますよっと」 深緑に金と黒、それと朱で描かれた華の着物を羽織ってゆっくりと近付いてくる姿に思わず二人して身構えてしまう。二人のそんな姿を見て、青年は思わず破顔した。 「嫌だな、〝お客様〟には何もしないって。とりあえず、うちの料理と酒だけは逸品だから、それだけでも召し上がってから帰ってくれると有り難いな」 ―――――次にこのような場所で申し訳ないが、と苦笑いにも似た笑みを浮かべて頭を下げれば彼からはほんのりと華の香りがした。