ブルー・ブルー・マンデー
- 600 JPY
親友で、クラスメイトで、好きな人。 手に入れたいのはどの未来なのかを悩みに悩む政宗と元親のお話。 佐幸の〝ソウル・キッス・ラヴァーズ〟との続き物になってます(単体でも楽しめます)。
〝ブルー・ブルー・マンデー〟本文より抜粋
どれが好きで、どれが嫌いでなんてそういうのはよく分からないけど、それでもやっぱり幸せであって欲しいっていうのが念頭にあるわけで。幸せにしてやれるのが自分だったら、幸せだ、なんて思って、少しだけ、落ち込んだ。 だって、俺には無理な話だから。 (恋愛は、人を殺せる) 空の青は、太陽の光が空気中の水分と埃で屈折して出来る色なのだと、幼い頃やっていた化学の番組でどっかのオッサンが力説していた。幼心なりにそれは結構な衝撃を受けたが、隣で洗濯物をたたんでいた小十郎が慌ててアニメのチャンネルに切り替えている様子を見て思わず苦笑いを浮かべたのを覚えている。その時に見た空の色に、今日は凄く似ていた。 「…………………」 空の色が薄いのは空気中の埃と水分が少ないから。光は屈折するものがなければ青く写すことすら出来ないらしい。その色は、不覚にも奴の瞳の色に酷似していた。 (……空色) 男にしては色白で、白銀の跳ね上がった髪、程よく筋肉のついた身体、長くてしなやかな指、薄い唇、空色の瞳。 それは時折儚さを含ませて、そこに居るのに消えてしまいそうな雰囲気を漂わせている。 入学式の日のクラス分けを表している掲示板の前で、自分よりも体格が良くて、存在感もたっぷりの癖に儚いとかふざけるなと思いっきり自分勝手な言い掛かりを付けて足を蹴ってやったのを思い出して、ふ、と笑みを零した。 「チカ、今日お前んち寄ってっていいか?」 昼休みが終わって、午後の温かい光が入る窓際の俺たちはいつも眠気と全力戦争だ。 その戦争の真っ只中な元親を振り返って机に寄りかかりながら小さな声で問い掛けた。 「…んぁ…? まあ……いいけど…?」 元親は元々、四国の生まれだが、高校に上がると同時に家を出て今は一人暮らしをしている。その理由までは知らないが、学校が許容する程の理由があるのだろうから、それなりなのだろう。…あくまでもその許容は多少、だが。 「Ah…あと、そろそろ来るぜ?」 そうとだけ言い残して身体を正面に戻して、さも勉強していましたと言わんばかりに教科書に顔を埋めた。瞬間、聞こえてきたのは元親の呻き声のような、痛みを訴える声とチョークが砕ける軽い音。そして一瞬間が空いて教室に大きな笑い声が沸き立った。 「いっ…てぇ!」 「長曾我部・・・貴様、私の授業で居眠りとはいい根性じゃないか」 「サヤカ!」 サヤカ、もとい、雑賀孫市は歴史を担当する新任教師だ。転任当初から美人だ、服装が過激だと騒がれていたが、それに見合わぬ男勝りな性格で今ではちょっとした学園の名物になっている。そんな孫市を堂々と呼び捨てにする元親との間に噂が立つのは仕方がない。が、そんな噂を知ってか知らずか、当の本人たちはそれについては何も語ろうとしない。語らない程の何かがあるのではないかと思ってしまう。 (Coolじゃねえな…) 聞こえない程小さな声で舌打ちをして窓の外に目を向けた。 外は相変わらず、気持ちが良いほどの天気だった。 「政宗、後ろ乗ってくだろ?」 不意に掛けられた問いに一瞬息を飲んで慌てて声のする方を向けばそこにはカバンを肩に掛け、ハーフヘルメットを持った元親が首を傾げていた。 「あ、あぁ…乗る」 ほらよ、と手渡されたヘルメットを受け取りながら小さく溜息を付いた。 手に収められたヘルメットにはアメコミにでも出てきそうな竜のステッカーが貼り付けられており、右目は油性のマジックで消されている。元親が被っているハーフヘルメットにも同じような絵面の鬼が貼られており、同じように左目が油性マジックで消されていた。 「やっぱり、…寒いから歩かねえ?」 そのヘルメットを手の中でボールのように転がしながらポツリと提案した。小さな声だったにも関わらず、元親は聞き逃さずにエンジンを掛けようとした手を止めた。正直、元親は優しい。顔も悪い方ではない、寧ろイケメンに部類される方で、愛想もいいし、兄貴肌だし、女子にだって実は密かに人気がある。 当の本人は気付いている様子も全く無ければ、告白されても断る一方で泣く女子は多数大勢。断るにしても、女子を気にして人目に着かないところで優しく断るもんだからそれでまた株が上がる。そのエンドレス。 今だ大きな欠伸をしながらバイクを押す元親の背中に思いっきり振りかぶって拳で殴ってやった。 「いって…何すんだよ」 「チカ、てめえまた告られてただろ?」 「なっ…」 少しからかうように問い掛け、持っていたヘルメットを手渡す。 見る見るうちに真っ赤になっていく顔に、ニヤリ、と意地悪な笑みを浮かべて脇腹を肘でつついてやった。 「なんで知ってんだよ!」 「昼寝してたら、聞こえてきたんだよ」 小十郎が作った弁当を食べて昼寝をしに図書室の奥の席に突っ伏していたところに、急に聞こえてきた話し声。 それはとても馴染みのある声で、誰のかなんて直ぐに分かった。正直他人の告白なんて聞きたくもなかったが、下手に動いて気付かれるのも面倒でそのまま寝てしまおうと目を閉じたけど、まるで知らない人かのような声を聞いていたら到底眠れそうになかった。