140字小説集『フィラメントを描く』
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☆140字小説集 第5弾 金属の細い線から成る、白熱電球を強く光らせるフィラメントにはなれない。それでも、この物語が誰かを照らす存在となるように。 遠回りだって、間接的だって、性懲りもなく描く。感傷、恋愛、青春、ホラー、コメディ、日常など、No.551‐700の140字小説に、書き下ろし3作を加えた153作を収録しています。 noteで収録作品が全て無料で読めます! https://note.com/akisuke0825/n/n1e706d42b14b ですが、文庫版は加筆修正、全作品に一文追加、素敵な表紙、購入者様限定140字小説1作が楽しめるのでぜひ! 【Presence】 マクドナルドの略し方で喧嘩している、高校生くらいの男女がいた。「マックだよ」「いや、マクドだよ」と仲良く笑い合っている。青春の、一ページにも満たない瞬間だった。あんな情景が私にもあったのか思い出せずにいる。ベンチに座りながら、昔より塩気の強いモスバーガーのポテトを食べた。 【くつ屋】 路地裏の日陰に佇む、顔馴染みの『くつ屋』に訪れる。退靴、屁理靴、窮靴と悪い感情ならサイズを問わずになんでもござれだった。今日は思考が柔軟で、性格がまっすぐな友人が気に食わないので『偏靴』をプレゼントする。そういえば、僕の履いている『卑靴』もサイズが合わなくなってしまった。 【ネットサーフィン】 「さぁ、新種目『ネットサーフィン』日本代表の挑戦。布団に寝転がりながらポテチとコーラを味わった。べたべたの手でスマホを操作する高難易度の技を繰り出す。おーっと日本代表、苦い顔になる!どうやらワンクリック詐欺に引っかかってしまったようです。これは大幅な減点になるでしょう」 【記憶の一粒】 昔々、思い出をこんぺいとうに変える魔女がいた。味わうように魔女が口の中にこんぺいとうを含むと、記憶が頭の中に流れ込む。逆に思い出をこんぺいとうに変えられた人はその記憶を失ってしまう。楽しかったはずの学生時代が思い出せない。私の記憶もこんぺいとうにされてしまったのだろうか。 【晴れのちラムネ】 「今日は晴れのちラムネです」と天気予報士が告げる。わざと傘を持っていかなかった私は、案の定ラムネに濡れてしゅわしゅわになってしまう。同級生の男の子が「何やってんだ」と笑いながら傘を差してくれる。ラムネは降り止んだはずなのに、ずっと、どこからかしゅわしゅわと音が弾けていた。 【チョココロネコ】 今年もチョココロネコのひっこしの時期が始まりました。コロネの中から「ぶにゃあ!」とチョコまみれのネコが飛び出すと、新しい住まいを探しに二足歩行でパン屋へ向かいます。よりおいしく、よりやわらかく、よりクルクルとしたチョココロネを求めて、チョココロネコは今日も旅を続けました。 【命の授業】 小学校で命の授業が始まった。クラスメイト三十一人それぞれに役割が与えられて、飼育係がお世話を。清掃係が排泄物の処理を。保健係が体調管理や怪我の処置を。そして命の重さを知るために、給食係がそれを調理してみんなに配った。クラスメイト三十人で両手と声を合わせる。「いただきます」 【春撒き】 冬の凍てつく寒さが通り過ぎたころ、町中では一斉にスプリングラーが起動した。勢いよく回るノズルから桜の花びらが撒かれる。枯れた木は鮮やかに蘇り、どこからか暖かい風を運んできた。今年こそはみんなでお花見ができるように願う。厳しい時代を乗り越えた証の、待ちに待った春撒きの季節。 【ナイトココア】 眠れなくなってしまったのでナイトココアを作る。牛乳と切なさと、ほんのちょっとの期待をマグカップに注ぐ。電子レンジで温めると湯気から星が揺らめいた。思い出の色をしたココアを一口含めば、私の心に真夜中が広がる。未だ見ぬ朝のことを想う。おやすみなさい。おやすみなさい、また明日。 【熱を泳ぐ】 熱帯魚が部屋の中を泳ぐ。いつのまにか外から紛れ込んでしまったみたいだ。最近は熱帯魚の数が増えて暑苦しい日々が続く。私の体を横切るたびに熱帯魚から熱い風が生まれる。後悔のこと、きみのこと、将来のこと、眠れない夜が積み重なった。息ができないのを、全部。熱、熱、熱のせいにして。